憎らしいぐらいに口角を上げて笑みを浮かべる男。

キスされた頬を押さえて

「そんなの横暴よ」

と叫んでみても

「美咲‥すきだよ」

と言って抱きしめてくる。

この男は‥‥私の話聞いてたの⁈

グッと腕に力を入れる私の耳元で

「有言実行だよ」

呆れて力が抜けていく。

…何を言っても聞く耳を持たないのね。

「もう…」

といいながら、彼の背に腕を回し背を叩く。

怒っているのに全然怒っているように聞こえないのは、どこかで嬉しい気持ちがあるから?

「諦めなさい」

笑いをこらえながら私の頭を撫でる男の優しい口調にきゅんときて
諦めるしかないのだと思った。

突然、社長が腕時計を見て

「そろそろ時間だな…チッ、仕事に戻るか」

名残惜しいように私の頬に手を添えて、唇を指先が触る。

先ほどのキスの余韻が残っている唇に触れられると、甘い痺れが体を回り、無意識に彼の指先を啄ばんでいた。

苦笑する男は余裕ぶって

「足りなかったか⁈後でたっぷりキスしてやるから、会場に戻る前に鏡見て直してこいよ」

頭をポンと優しく叩いて先にドアの向こうへ行ってしまった。

ドアが閉じてから自分がした行動に赤面して頬を押さえる。

彼の指先を…思い出して自分の指先を啄ばんでみると、けっこう恥ずかしくて、
いやらしく感じるのはどうして?

私、なんてことしちゃったの⁈

…穴があったら入ってしまいたい衝動に駆られていた。

このまま、家に帰って布団の中に隠れてしまいたい…あぁ…でも、仕事中。

そうよ。
仕事中なのになんてことしてたの⁈

戻りにくいじゃないの…

そう思いながらも、ドレッシングルーム
で乱れた唇に紅を塗り直した。

「平常心、平常心よ」

頬を軽く叩いて気合を入れると会場に戻った。

すでに、終盤を迎え何組かカップルができているようにみえた。

社長を探すとマイクを持ってステージに立つところ。

「楽しく会談中申し訳ありません。そろそろ時間になり名残惜しい方もいるでしょうが、本日はこれでお開きとなります。名残惜しい方は、意中の方を誘ってみてはいかがでしょう⁈この会場の上にあるバーは夜景がとても綺麗ですよ。また、運命を感じなかった方は、夏の船上パーティーを開催する予定ですのでそちらに参加してみてはいかがでしょう。素敵な出会いがあなたを待っているかもしれませんね。では、皆さん、良い週末をお過ごしください」