男が苦手だと知りつつ、俺以外の男を意識させたくなくて、その日に何度も触れた唇。

男が嫌いだといいながらも、俺とのキスを拒まない彼女…いや、拒んでいたかもしれないがあんなの拒んだうちに入らない。

俺は、嫌われていないと勝手に自負して気をよくしていた。

だが、あの日なかなか戻ってこない彼女が気になり、仕事を途中にして追いかけた。トイレの前を通った時、偶然聞いてしまった言葉。

彼女の心の奥に抱える傷の深さを知る。

「また、男に騙されたいの⁈キスなんかで好きにならないんだから…」

騙されたいのって何だよ⁈
俺が騙すと思っているのか?
まて…その前に『また』って……前に男に騙された事があるってことか⁈
だから、好きだって言葉だけじゃ信じてくれないんだな…

キスなんかじゃ好きにならないか。
フッ…なんだか、逆にスキだって言われてるみたいだな…

それなら彼女にちゃんとした1人の男として意識してもらおう。

次の日から俺は、触れたくてたまらない唇が目の前にあっても…
抱きしめたい衝動に駆られても…
彼女に触れる男がいても…

いつか、俺の思いが届く日まで誠実な俺でいようと誓った。
そして、彼女が心を開いてくれるのを待っていた。

今回の婚活パーティーの出席者の男達はあからさまに彼女に視線を送っていた。今日の彼女は、袖がシースルーの紺のブラウスに白のフレアスカートで、どの女達よりも清楚で綺麗だった。

そんな彼女を男達が放っておくはずがなく、彼女に近づき声をかけだした。

まぁ、男達は女達の目もあるからか、あからさまに口説いたりせず、彼女の気をひこうと奮闘しているようだった。男を毛嫌いしている彼女も顔を引きつりながら対応しているのを見て、俺は、心の奥で『ざまーみろ、お前らなんか相手にされないさ』と毒吐いてた。

空気を読めない男が、彼女を口説きだした。周りの女達は、冷ややかに彼女を見ている。
やばいと感じた俺は、彼女の元に…

酔っぱらったタチの悪い男に絡まれているようだった。

場の空気を悪くせずに、目の前の男を追い払う方向…

彼女は、俺の婚約者だと遠回しに言う。
酔っていてもわかるだろう⁈

意味を理解した男は離れていったが、あの日から触れたくて我慢していたのに…

スキだらけの彼女にイラついた。
だから、あんな酔っ払いに触られるんだよ。

理性を保って接するつもりだったのに…

プッツンと何かが切れた俺は、彼女をその場から連れ出し、人気のない非常階段に連れ込むと彼女にとんでもない言葉を吐いて、触れたくて我慢していた唇に触れていた。