その後、運ばれてきた食事もカフェラテもいただいたけど…密着しそうな距離で男に見つめられ味わう余裕がなかった。

不機嫌そうにしていた男は、その後、機嫌がよくなり仕事に戻っていく。

だけど、私ときたら百合子さんのチラチラと見てくる視線を受けて、仕事に集中できずにいた。

それに、手付かずだった私の海老天丼は、帰ってきていた天宮くんのお昼ごはんに。

「美咲ちゃん…ごちそうさま」

「いいえ…海老天丼、美味しかったですか?」

食べたかったのに…

「うん…もしかして一口食べたかった?気がつかなくてごめんね。美咲ちゃんの海老天丼を食べたお詫びに奢るから今度、2人でご飯行こうか?」

「2人きりはちょっと…」

「ダメ?彼氏いるの?」

「こら、仕事中に口説いてるんじゃない
。仕事しろ…」

そこへ戻ってきた鈴木さんに頭を小突かれた天宮くんが、口を尖らせてつぶやく。

「鈴木さんには森井さんがいるじゃないですか。この職場で相手がいないの俺だけですよ…」

ボッと頬を染める森井さん。

副社長の石井さんも百合子さんも結婚指輪していたから既婚者なのは気づいていたけど…鈴木さんと森井さん付き合ってるんだ。

「美咲ちゃん、彼氏いるの?」

「……えっ、と…私、男の人苦手で…仕事として付き合うのは大丈夫なんだけど、彼氏となると気後れしてなかなか付き合えないの」

…男なんて嫌いって言ったら、社長のように勘違いされて説明するのも面倒だもの。こう言っておけばいいわよね⁈

「マジ⁈彼氏いないの⁈よし、俺、頑張るから彼氏候補からお願いします」

手を出して握手を求めてくる天宮くん。

困って周りを見渡すとニヤつく鈴木さんと石井さんがからかう。

「ここは、職場だぞ…」

「タイミングを逃す訳にいかないんです。チャチャ入れないでくださいよ」

百合子さんは、お昼の事を知っているから視線は社長室を見つめている。

賑わう声にやはり出てきた男が

「賑やかですね…仕事中なのに何の騒ぎですか⁈」

冷ややかな声で辺りを一喝する。

「さぁ、天宮‥仕事だ…」

焦った石井さんの声で、みんなが動き始めた。

「溝口さん」

背筋が凍るような声で社長が私を呼ぶ。

「は、はい」

「ちょっと、こちらへ」

呼ばれた社長室に入れば、ドアを閉めた男がまたもや公私混同して

「天宮に何言われた?男が嫌いだと言うくせに、どうしてこう次々と…チッ」