「ただいま…」

ちょうど、お風呂から上がってソファの上でビールを飲んでいたら、珍しくご機嫌の様子で兄が帰ってきた。

「おかえり…機嫌いいみたいだけどどうしたの?」

「あぁ、向こうから車を買いたいと言ってきたんだ」



なんのことだか⁈

「誰が?」

「…お前の、ほら新しい仕事先の社長。隣の山根さんだよ」

ブッと吹き出す私。
はい⁈

「社長といつ会ったの?」

「今…エレベーターから一緒だったんだよ。俺が玄関を開けた時に隣の住人だと思って挨拶してきたんだ。名刺交換してその流れで車を買うって話になったんだよ」

「そうなんだ」

「今度、パンフレット持って行ってくれよ」

「えっ…なんで私が⁈」

「…そのビールを飲めるのは誰のおかげだろうな⁈」

クッ…言い返す言葉が見つかりません。

「はいはい…わかったわよ。持って行けばいいんでしょう」

「頼む…じゃ、先に寝るな」

兄さんは、満足そうに笑うと自分の部屋に入っていった。

はぁ〜

隣の住人、山根 大河のいるであろう壁に向かってため息を1つついた。

明日からなんだよね…
秘書ってなにするだろう…

急に明日からの仕事内容に不安でいっぱいになり、缶に残っているアルコールを一気に飲みほして口元を手の甲で拭った。

とにかく頑張るしかないんだよね…

よし…とソファから立ち上がり缶をゴミ箱に捨てるとリビングを見渡して灯りを消した。

そして、自分の部屋のドアを開け明日に備えて眠りについた。

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朝、いつもより30分ほど早く起きていつものようにモーニングコーヒーを飲んでいた。

だけど、緊張で目が覚めたと言った方が正しい。

だから、あえていつものように装うようにしていたのに…目の前のフライパンの中で目玉焼きが大変なことになっている。

あちゃー

白身のまわりが黒焦げ…
少し、焦げ臭い匂いと灰色ががった煙が部屋を充満しているので、急いでベランダの窓を開け換気する。

外は、雲ひとつない綺麗な空だった。

んーと手をかざし背伸びをすると

「おはようございます」

隣から男の声がして声のする方を向く。

「あっ…おはようございます。…社長」

思わず、自分の身なりを正そうとボサボサの髪を手のひらで撫でてみる。

そんなことしたって遅いのに…

そんな私を見て山根社長はクスッと笑う。