それからしばらくした頃、百井くんとわたしだけの秘密だと思っていた旧校舎の美術室にお客さんが現れた。

曇りの日が増え、空気に湿気が多くなり、なんとなく梅雨っぽい雰囲気がわたしたちの住む地域を包みはじめた、そんな頃のこと。


「あ、あのっ! すみません、ナツくん……百井夏樹くんって、こちらにいますか?」


放課後、美術室の窓辺に立ち、棧に頬杖をつきながら薄曇りの空をぼんやり眺めていると、ふとうしろから、そう声をかけられた。

びっくりして振り返ると、美術室の出入り口にどこか所在なさげに立つ女子生徒の姿が目に入る。

大きなスケッチブックを胸の前に抱え、ピンク色のカーディガンを羽織り、困ったような笑顔を浮かべて、百井くんの所在と、どうしてわたしがいるのかわからないような顔をして、パチパチと目をしばたたかせていた。

それでも、彼女のふわふわとした雰囲気が損なわれることはなく、困り笑顔もとても可愛らしい。

ていうか、今、ナツくんって言った……?


「あの、えっと、百井くんは今、絵筆を洗うバケツに水を汲みに行ってて。……あ、わたしは、百井くんと同じクラスの百ノ瀬という者で、彼の友だち……です」

「あなたも〝モモ〟……」

「え?」