校門を離れ、商店街に差し掛かったところで、思葉はいったん足を止めた。


走ったわけでもないのに足が痛い。


思わずその場にしゃがみこんで息を吐き出す。


軽くめまいがした。


片手で額をおさえ、もう一方の手で匂い袋をにぎりしめる。



(もう、何なのよさっきのは一体……)



不可解すぎて、恐怖を通り越して怒りさえ湧いてくる。


矢田ではなく來世だったら確実に一発蹴りを入れていた。


両方の二の腕をさすって立ち上がる。


早くもっとも安心できる家に、永近の張った結界の中へ逃げよう、あれこれ考えるのはその後だ。



頭を振って歩き始めたとき、後ろから自転車のタイヤの回る音が聞こえてきた。



「思葉ちゃーん」



呼ばれて振り返ると、今歩いてきた坂道を実央が自転車で下ってくるところだった。


実央は思葉の脇で停止し、自転車から降りる。



「実央さん、あれ、家こっちじゃなかったよね?」


「今日は塾なの。


だからこれから駅前に出勤、途中まで一緒に行こう?」


「いいけど、大丈夫?間に合う?」


「ちょっとくらい遅刻しても平気だよ、先生緩い人だから」


「そうなんだ」