電話の音で目が覚めた。

『もしもし?』

 耳元に響く、先生の優しい声に胸が締め付けられる。まだこんなに好きだ。

『気持ちはわかるけど、仕事に来なさい』

 先生の声には逆らえなかった。声を聴くと会いたくなる。

 私はゆっくりと支度をし、仕事場に向かった。

 デザイナー室に呼ばれた私は、先生の姿を見て驚いた。

 先生が私の作った服を着ている。

「ああいうのは審査員の好みによるところが大きいからね。私が審査員だったらまあ、優勝は無理でも、何らかの賞は上げたのにね」

 優勝と言わないところが先生らしい。

 先生のちょっとイジワルな顔に言葉が出なかった。

「泣かないでよ」

 本当だ。気が付いたら涙が出ている。

 必死で止めようとしても、こらえようとしてもあとからあとから出てくる涙。

「……っく」

 気が付くと先生の胸が目の前にあった。

 大好きな先生の大きな掌が私の頭をなでる。

「この、男が着てもオネエが着てもカッコよく見える服、すごく気に入ってるんだから、涙付けないでよ。」

 私は涙を流しながら笑ってしまった。

「お前だけだよ。俺が男でもオネエでも、好きだと言ってくれる変わりもんは」

「だって先生、オネエのフリが板につきすぎちゃって、結構気に入ってるでしょ?」

「よくわかったな」

「ずっと見てましたので」



 先生は、亡くなった彼女の話をしてくれた。

 ―昨日まで一緒にいた彼女が突然、自分の前からいなくなった。

 何度も自殺未遂をしたが死にきれなかった。

 見かねた美容師が、似ている女の子に同じ髪型をさせ、「この子のために服を作れ」と言ってくれた。

 そのデザインが爆発的にヒットし、今の会社が出来上がったー


「もう、彼女のためじゃなく、会社のためにデザインしているんだ。だから、お前を見た時は、違うデザインができると思った」

「え?私……ですか?」

「お前は違うタイプだったからな。でも、彼女を忘れていきそうな自分が怖くて仕方がなかった」

「……先生」

「それでもお前にそばにいて欲しいと思うのは、自分勝手か?」

「いいえ、先生!私も先生のそばにいたいです。そばにいさせてください!」

 先生は私を抱きしめた。私も先生を抱きしめた。先生は私のおでこにキスをし、頬に触れた。

 ほんの少し期待したのに、気が付いたら先生は机に向かっていた。

「ちょっといいデザイン思いつちゃったのよ!山川は仕事に戻りなさいね」
 
                   おしまい