ふと、男がフラれているのを聞いて少し前のことを思い出してしまった。嫌な記憶だ。話したくもない。

生まれつき僕は目が見えない。
こんなことを言うのは失礼だが、弱視という光は認識できる視覚障がい者が僕は羨ましい。
僕は全盲と呼ばれる、光すら認識できない視覚障がい者だ。

「かわいそう」と言われても、
「大変だね」と言われても、
僕にはよくわからない。

いや、きっと生まれつきの先天性の障がい者や病気を患った人はその気持ちがわからないんだ。

だって、目が見えたことがないから何がかわいそうなのか、何が大変なのかがわからない。

みんながかわいそうだと言う生活は、僕らにとったら普通なんだ。

「……今日は公園は、寒いかな?」
お母さんは僕の左側で腕を掴んで歩いてくれる。
「僕は公園の方がいいかな」
僕は左側に首をひねって、笑う。

今日は母さんとお出かけの日。月に一度、親子水入らずで公園に行ったり、買い物に行ったりする。
僕はデパートが嫌いだ。人がたくさんいるから歩くのも疲れるし、見えないからこそ視線が怖い。
母さんとはぐれた時に、大きな不安に襲われてからデパートが怖くなった。

「わかったわ」
母さんが小さく微笑んだ気がした。
「……ありがとう」
僕も小さく微笑んだ。