ガチャリとカギが開く音。
「どうぞ?」
雪絵さんが小さく呟いた。

「ありがとう」
僕は笑ってお礼を言った。
「……う、うん」
雪絵さんは僕にカギを握らす。

雪絵さんの手が震えていた気がした。
「じゃあ、お邪魔します」
栗山先生がクスクスと笑いながら言った。

「え?」
雪絵さんは間抜けな声で言う。
「お昼、食べなきゃ」
栗山先生が真面目な声で言う。

「あっ、そっか。
ひーちゃん、お昼の用意しなきゃね」
雪絵さんは納得したようだ。
「え?私のだけど?」
栗山先生のさらりと爆弾発言。

「ちーちゃん、最低だよ」
「ありがとう」
褒めていないと、僕は思うんだけどな。

「適当に、座ってください?」
僕は一応そう告げる。
「お邪魔します」
「失礼しまーす」
どっちが大人かわからないな。

「冷蔵庫のなかみ中身勝手につかうね」
「あ、どうぞ」
僕は小さく笑って言った。

なんだろう。少しだけ、ドキドキする。

「雪絵はさ、彼氏つくらないの?」
「ちーちゃんにはデリカシーがないから、
彼氏がいないんだろうね」
雪絵さんが、淡々と告げる。

返事をしないってことはいないんだろうな。よくわからないけど、安心した。

「私、一生独身宣言するから」
そういう人に限って結婚するんだろうな。
トントンと、包丁の音が聞こえ出す。

「陽斗くんは、彼女いるの?」
「無理ですよ。僕なんか」
僕は自嘲気味に言う。

「カワイイ顔してんのに?」
「そうですか?」
僕はペタペタと自分の顔を触る。

「意中の子がいないなら、ココはどう?」
「え?」
どういう話の流れだろう。

「ちーちゃん……?」
柑橘系の香りが、近づいてくる。
「ひっ!?手、冷たッ!?」
かん高い声で栗山先生が叫ぶ。

「水使ってるもん」
どうだと言わんばかりの口調。
濡れた手で栗山先生に触れたのか。
「ほんっと、かわいくない」
栗山先生が小さく呟いた。

雪絵さんは、きっと、話すことも伝えることも苦手なんだろうな。僕は勝手に親近感を感じていた。