僕が死んだって誰かが代わりになるから。
そう、思い始めたのは僕のお兄ちゃんが死んだ頃からだ。
お兄ちゃんは極度の寒がりで、夏場でもマフラーはかかせなかった。お兄ちゃんは頭がいいらしくて、僕によく勉強を教えてくれた。困っている人がいたら放っておけない、優しいお兄ちゃんだった。

そんなお兄ちゃんは飛び降りて死んだ。
「いってきます」
と言っていたのに、帰ってこなくなった。
明るくて優しかった声はもう聞けない。理由はわからない。目撃者もいない。全てがなぞのまま、お兄ちゃんは17歳という若さでこの世を去った。

一週間に一度は、必ず学校の先生たちやお兄ちゃんの友だちが家に来てた。彼女なんて毎日来ていた。でも、今では誰も来ない。命日にも、誰も来なくなった。

人って薄情なんだな、と。
代わりの人でも見つかったんだ、と。
感じてもおかしくはないでしょ?

「陽斗くん、聞いていますか?」
突然の声に、僕はハッと我に返る。
「……す、すみません………」
僕は小さな声で謝った。

「体調でも悪いんですか?」
「………少し」
僕は堂々と嘘をつく。

「……帰りましょう。無理してはいけません」
先生は教科書を片付けているらしい。
「で、でも……」
厄介者は家に帰したいのだろうか。

「お母さんはお仕事中ですね。私が家まで送ります」
先生は僕に立つように告げ、僕の左手を掴んで歩き出す。

……人形みたいだな、僕。
自分で言っといて、情けなくなってきた。
扉をノックする音。保健室の先生の声がした。