ケータイ小説 野いちご

カルナック戦記

1 挑戦
錆びた心の戦士たち





彼女は時折、彼の憎悪に染まった瞳を思い出すことがあった。


見るも無残な姿へと成り果ててしまった妹を背に、彼女の胸倉に掴みかかったあの青年。

脳裏に焼き付いたその場面が、彼女の中で何度も繰り返された。


(もう二年前のことなのに、…復讐を試みて入団しようとする輩など数え切れないくらいにいるのに)


なぜだかどきりとしてしまったあの瞬間を、感情を乱してしまった自分を、彼女はまるで昨日のことのように鮮明に覚えていた。

彼女は青い髪をかきあげて息をつく。

少し憂いを帯びた横顔は、美人と称されるだろう美貌を持っていた。

…身につけているものがタンクトップ、乗馬ズボンにブーツという何とも男らしい格好だということが瑕瑾である。


(…昔の自分と重ねてしまうから、ここまで彼を忘れられないのか)


彼女が回想から現実に戻ると、滑ったペン先が、真っ白な紙に歪な弧を描いていた。


「………あー」


『ベロニカ』と、彼女の名前だけ記された報告書を投げ出し、ベロニカは窓から見える灰色の空を仰いだ。




カルナックの第一都市、首都カッサンブルク。

その中心の城郭都市にある荘厳な王城は、十年前まで威風堂々たる姿でこの国を見下ろしていたのだがーー今窓から見える王城は蔦があちこちに絡み付き、嘗ては色鮮やかな群青だった屋根はすっかり色褪せ、くすんだ水色と成り果てている。

夏のはじめの生温い風に力なく靡く国旗は、疲弊した国民の姿と重なって見えた。


城の裏側に位置するこの騎士団の宿舎からは、荒んでゆく城郭都市がよく見えるだけに、ベロニカはいつも窓から見える景色に顔をしかめるのだ。





「…面倒くさい。報告書は後にするか」


考え事があるときはろくな文章は書けないものだと言い訳をし、彼女が自室から出ようと扉に手をかけたときだった。


手前に引くはずだった扉がひとりでに勢い良く開いたのだ。


「ーーベロニカ!」


いや、扉がひとりでに開いたのでは無い。

開けたのはいたずらっぽい目をした少年だった。







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