図書室と書かれたルームプレートが見えてきた。
その時にふと思った。

そういえば、鍵は空いているのかしら?
普通に考えたら空いていないと思うけれど…
空き教室はすでに先客(?)がいたから空いていたのであって、
音楽室は最初閉まっていたのを松本さんが開けたから入れたんだったわよね?

その事を東雲君に話そうと顔を上げたら、
東雲君はいなかった。

「え、東雲君?」

キョロキョロ廊下を見渡して見ても、
さっきまで見えていたはずの背中は見つから無い。

もしかして、またはぐれたの!?

「何してるんだ?入らないのか、荒峰」

…いました。

東雲君はひょっこり図書室の扉から顔を覗かせて、
私に向かって不思議そうな目を向けていた。

「…ええ、少し考え事をしていただけよ」
「そうか」

見失ってはぐれたと勘違いして『少し』慌てていたのを悟られたくなくて、
何も無かったかのようにそういって図書室に入った。

若干東雲君と目を合わせないようにしたけれど、東雲君は特に気にした様子はなかった。



それにしても、と東雲君が照らす図書室の中を特に目星も付けずぐるりと見てみる。

未来が分かるらしいから、『予言の書』でいいのかしら。
といっても、表紙も背表紙も黒い装丁なんて
まず図書室に置かれるもの?
少なくとも私は、見たことないわ。

本当は『呪いの本』だが、それにも気付かないくらい私は話半分にしか聞いていなかったので分からなかった。
それはともかく、普段うるさい教室で読書をするよりは、
とそれなりの頻度で図書室を利用する私だけれど、
そういった装いの本は本当に見かけた覚えがなかったので、
正直存在自体を疑っている。

とはいえ、この学校に通い始めてまだ半年。
図書室に通い始めたのも同じくらいだから、
大して把握出来てはいないかもしれない。

不可解に思いながらも、二人で一通り本を探してみることにした。

「…本当にあるのかしら」
「まあ、無かったらそれはそれで良いんじゃないか?『未来を奪われる』なんてことが本当にあったら危険だ」
「ないでしょう」

そんな仮想の話を信じるような事を言わないと思っていた東雲君に少し驚きつつ、
呆れた、と虚ろな目を向けた。

すると、言った時は真剣な顔をしていた東雲君が、
私の視線に気付いてなんだか罰が悪そうに頭をかいて困ったような顔をした。

「難しいな。やはり俺には澄晴の様に面白おかしく話をする才能は無いらしい」
「私に面白がって欲しかったの?」
「そうだったんだが、むしろやらない方がよかったな」
「賢明な判断だと思うわ」

そういう話は、澄晴や木下君みたいな、人が笑おうが怒ろうが気にしないような人がやらないと駄目よ。

東雲君は人の事を考えすぎて反応を気にしすぎるでしょうから、
きっと疲れてしまうでしょうし、向いていないことをわざわざする必要は無いもの。

そういう意味で言ったのだけれど、
東雲君はその言葉に何となく寂しげに肩を落としていた。