午後七時に仕事を終えて家に帰ると、夕飯の準備をしながらお父さんを待つ。

いつもお店を閉めた後に精算業務をするお父さんは、私より帰りが遅いのだ。


「ただいま」


味見をしているところで、お父さんがキッチンに顔を出した。

薄く微笑むその顔は、少しだけ疲れているように見える。


「おかえり」

「うまそうな匂いだなぁ。魚か?」

「うん、さばの味噌煮。市河さんとこで『安くしとくから買ってけ』って言われて」


商店街ではたいていの食材が揃う。

今日は魚屋“イチカワ”で、元気なおっちゃんに乗せられて切り身をお買い上げ。

「なんならお値段そのままでもう一枚つけるよ!」と、何かの通販みたいなノリで言われたけど、そんなにいらないときっぱりお断りした。


そんなどうでもいいエピソードを話すと、お父さんは笑いながらダイニングテーブルに座った。

広い一軒家の中、四人掛けのテーブルに並べた和食を、二人で囲んで食べる。

バラエティー番組を見ながら二人してつっこんだり、面白いお客さんの話をしたり。お母さんはいないけれど、居心地の悪さを感じたことはない。


むしろ、一緒にいてあげなきゃいけないと思っている。

天然だけど優しいお父さんは好きだし、元気なように見えて意外と繊細なこの人は、私までいなくなってしまったら、いろいろな気力をなくしてしまいそうだから。