けして規則的に鳴る訳でもない診察室への呼び出し音がポーンと鳴る、この音が「心臓」を思わせるのはなぜなんだろう。僕たちの生命活動なんて所詮機械仕掛けのような、単純さで、複雑さで、いつか電池が切れてしまえばそれで終わりなのだ。

 車椅子が悠々と行き交える程広い廊下の真ん中で立ち止まる。僕たちは向かい合い、僕たちは躊躇い、僕たちは戸惑う。
 こんなところで、君に逢えるなんて思いもしなかった。

 大きな窓の外から始まったばかりの春の、まるで生まれたての赤ん坊のような初々しさで光差す廊下で、僕らは一言
 「久しぶり」
 と、言ってすれ違った。

 まるで、「はじめまして」とでも、言うように。

 ポーン、と呼び出し音が鳴る。廊下は急にざわめき始める。
 君の背中が外来棟の廊下を行く。

 きっと、「はじめまして」と言うように、あの時、僕たちの始まりが始まった。
 それは、けして、「再会」などではなく。「再開」なのでもなく。

 君は振り向かなかった。
 君を見送る僕を、振り向かなかった。