日の光を浴びて輝く弓。それは、明らかに兜を地面に落とし、やっと起き上がった状態の黒髪の少女を狙っていたが、放たれることはなかった。
『もう勝負はついたからな』
 そう言いながら少女に差し出される、よく日焼けした少年の手。
『ジョルジュさん、凄いですわ。感服致しました』
 可愛い声でそう言いながら、伸ばされる色白でほっそりした少女の手。
 ――どうやら、ジョルジュの計画では、そうなる予定だったらしい。
 だが、現実は、そんな妄想程甘くない。あくまでも彼女を庇おうとしたバートを、嫉妬で狙い撃ちしたというのが事実であり、それでも彼女を庇いきったバートに、彼女はつきっきりで看病をしていた。ジョルジュのことなど、これっぽっちも考えずに。
「ジョルジュ」
 そんな彼を、兄、マルクの声が、その厳しい現実に呼び戻した。
「分かったよ……」
 ジョルジュはそう言うと、溜息をつき、男達に深々と頭を下げた。彼にしては、珍しく。
「悪かった」
 小さいが、はっきりと聞き取れたその言葉に、彼を取り囲んでいた男達は、顔を見合わせた。
「すみません。私も一緒に謝りますので、これで許して頂けませんか?」
 そう言いながら、マルクもそのすぐ傍で頭を下げると、ジョルジュは頭を下げたまま、後ろの兄を見た。
「兄貴まで謝ることは無ぇだろ!」
「いや、お前の保護者は、私だ。お前の監督不行き届きは、私の責任でもある」
「保護者って、俺はそんなに……」
「子供じゃないですよね?」
 そう言ったのは、可愛い、澄んだ声だった。
「お前……」
 ついさっき、彼女の顔を思い浮かべていた少年は、長い黒髪の少女がニコリと微笑みながらこちらに歩いて来るのをまるで幻をみるような瞳で、見詰めながらそう呟くように言った。
「私も『お嬢ちゃん』と言われるのは、あまり好きじゃありませんから、お気持ちは分かります」
「違うだろ! そんなことじゃなくて、お前は今、あいつの看病をしてるんじゃなかったのか?」
「ああ、そのことですか」
 少女はそう言うと、再び微笑んだ。
「そのことなら、大丈夫です。バートも気付いて、治療を終え、休んでいますので」
「ついてなくて、いいのかよ?」
「それより、伝言を頼まれましたので」
「伝言?」
「ええ」
 シモーヌはそう言うと、ジョルジュを真っ直ぐ見詰めた。
「『約束を果たせ』――だそうです。でも、もう謝罪されて、仲直りはされたんですよね?」
 彼女がそう言って周囲を見回すと、男達は顔を見合わせた。