警察署に戻った杉村は考え込んでいた。


正直10代の若者の失踪の多くは家庭内事情などによる家出が多い。


届出の数も多い為、全て相手にしていると体が持たないし、捜索した所で大体は自ら戻ってく
る。


それに事件性が無い限りは本腰を入れて捜査に当たることはあまりないのだ。


だが、そもそもこういった案件は杉村の担当ではない。


杉村は1週間前に起きた太田市通り魔事件を担当していた。


しかし、公務員というのは上下関係が非常に厳しい世界であり、尚且つ金絡みの不正が多い。


杉村は飲み会の席で酔った勢いとはいえ不正金について追求してしまい、更には上司と揉めてしまった。


そして気付いた時には担当を外され、今に至る訳だ。


「浅井綾香か・・・。」


杉村は制服姿の綾香の写真を一度見直してからファイルに閉じた。


仲の良い同僚からの話では通り魔事件の方も捜査が難航していると聞いている。


杉村は通り魔事件についてメモした内容をもう一度見返した。


・10/12、朝7:00頃太田市内の公園にて男性が胸から血を流して倒れているのを、散歩中の老夫婦により発見される。


・同日午後、鑑識の結果により死亡推定時刻は10/11の18時~20時と判明。


・被害者の名前は「平野 隆」、48歳、吉岡精機工場の工場長

 
・嫁「平野 恵 」、45歳、専業主婦


・娘「平野 優子」、17歳、太田北高校2年在学


・聞き込みによる目撃者は今のところなし。


杉村はここまで読み返してあることに気付いた。


「太田北高校2年・・・」


先ほど閉まったばかりのファイルを取り出し、綾香の失踪届けの欄を見た。


「浅井綾香・・・太田北高校2年・・・」


たった1週間の間に1人は父親が殺され、1人は失踪・・・。


刑事の勘とでもいうのか、いつになく杉村は胸騒ぎを感じずにはいられなかった。