「…また、お会いしましたね」

「こんにちは、扉の番人さん」

大きな扉の前で会話を始めた二人の上に、桜の花びらがヒラヒラと舞っていた。

一人は扉の番人で、白いのっぺらぼうの仮面を付け、白いフード付きのローブを着た男で、もう一人は長い栗色の髪と瞳をした、16・7才ぐらいの少女だ。

「…ずいぶん長い間、あちらに渡られていないようですが、何か理由でも?」

仕事を終えた扉の番人は、見送り人が帰って行った後、一人残っていた少女のデータをファイルで検索すると、前世の名前で呼んでみた。

「ジュリエットさん…?」

少女は質問には答えず体の向きを変えると、水辺に浮かぶ長い桜並木の道を歩き始めた。

番人は返事が返って来ない事を気にする様子もなく、ファイルを脇に抱えると少女の後ろを歩き始めた。

「うふふ、何でだと思う?番人さん」

「さぁ…」

突然、ふり返った少女が楽しそうに後ろ向きで歩くと、たずねてきた。

「私、ここが好きなんだ〜」

「そうですか…」

番人がそう答えると、少女は別の話しを始めた。

「その仮面は、何で付けてるの?」

「おそらく、私に感情がないせいではないでしょうか…それを不快に思う方もいるようなので…」

「ふ〜ん、じゃあ取ってもいいの?」

「はい」

「じゃあ、取ってみて」

「かしこまりました…」

番人は仮面を取ると、少女に顔を見せた。

「わぁ…私、あなたの顔、好きだわ〜」

「そうですか…」

目を輝かせながら、まじまじと顔を見つめる少女に、番人は淡々と答えた。

「今、ちょっと照れたでしょ?番人さん」

「いえ、私にはそのような感情は、ありませんので…」

「うふふ…」

少女は気にせず楽しそうに笑うと、円形図書館のゲートをくぐって光の庭へと歩いて行った。