昼の12時過ぎてメールの着信音で目を開けた。まだ頭はぼーとしてる。起きる気はなかった。1度メールを確認するため腕をベッドから出す。その時、自分の腕を見ることを忘れない。アザがひとつ大きく広がっている。杏はうっとりした。フォルダを開けると[急ぎで]と1行目に書かれてあり目を大きく開けた。
[急ぎで、
12月3日19時から恵比寿シャインビル903
おおやま様
M嬢で 3時間
入れますか?]

来週のシフトのことだった。出勤出来るが、直ぐに返事はしなかった。ざっと頭のなかで考えた。起きて、風呂に入って、髪を巻いて、家を出る。2時間はかからない。電車に乗ってから返事をしよう。目を閉じた。あと2時間は眠れる。


夕方になって事務所に向かう電車のなかでメールを打った。でも、途中で打つのをやめた。電車の椅子が暖かくてまた眠りたくなった。でも、椅子に座ったときお尻が痛い。右側のお尻の頭部に手のひらほどの青タンがある。どう体の重心を動かしてもそこに当たる。立っている方が良いかも。でも、歩いている時も常に痛かった。お尻は体を動かす部分で重要な接続部だ、今日1日ずっと痛いだろうな、はぁ~。

近頃SM風俗店でアザや傷がつくプレイは禁止されていた。ムチなどの道具はすべて遊具用のレプリカに替わり、嬢たちは痛みがなく行為を終わらすことができる。それは見た目や性格が良い女の子を揃えるため店側のとった策だった。これが当たり、今では店子の多数はノーマルの子だ。

杏は少数にいた。あえて痕に残る行為を求めた。しかし、杏の人気はあまりなかった。店でナンバー7に入ることは1度もない。《店の名前が7つの罪だからって!》行き過ぎたアブノーマルを禁止しているため客層もちょっとかじったSM好きが多い。杏はその客たちに嫌われる。客は杏の体のアザを見て引いてしまうからだ。また、杏自信も生半可なプレイは精神的に負担だった。甘えることや可愛い子ぶることもできない杏はただ痛みのみ欲した。杏の心は客に異常に見えるだろ。初めの頃はプレイ終了後、納得いかない心をどう埋めようか考え、しまいに感情をイラつかせてしまう。『あの客め、マジいらない。くそ死んでよ』ベッドの上で3時間くらいはその感情を繰り返してる。

杏の客はアザや傷がある女性をさらに虐めたがるクズな紳士だった。スーツ姿でプレイしたり、ジーンズ姿の人もいるが、杏は常に裸であることは変わらなかった。杏は自分の体が好きでもある。痩せ型で鎖骨が湯飲みのようにえぐれてる。体を曲げるときに見える骨が心をドキドキさせる。ナルシストになってしまう。モデルのような体系に、腰まである長い髪。そして、杏の魅力は目にあった。遠くを見つめるような深い目をしている。長いまつ毛は哀愁を漂わせている。すれ違いざまに盗み見されるほど魅力的。杏はいつも長袖だがそんなことは誰も気にとめない。美しいから。神秘的な雰囲気が杏の不思議な行動さえもを肯定的に映す。



杏は事務所に荷物を取りに行き、指定された目黒のホテルへと向かった。少し古びたホテルであった。404のベルを鳴らした。会いたドアから男性が顔を出した。杏は一気に緊張し、喉の辺りから苦い唾液が出ているのを感じた。深く腰を折り、おじきをした。『こんにちは。本日は2時間のお世話になります。杏です。よろしくお願いします。』1度に言い終わると相手は入ってくれと小さな声で言った。後ろから杏は男性のことを見つめた。姿勢が正しく体に合った少し青みの強い紺のスーツを来ていた。 杏はこの男と会うのは2度目だと思った。

部屋の中にはいると直ぐに杏は店に電話をいれた。『杏です。目黒、イッツホテル404 2時間開始します。』事務的な返事の後、杏は電話を切った。開始前に必ず連絡をすることは風俗店で必ずするルールだった。一対一で行う商売は犯罪がつきものだ。他にも幾つかルールがある。
1、プレイ開始前に店に電話を入れる
2、電話が終わったらタイマーのスイッチを押す
3、必ず一緒にシャワーに入る
4、コンドームの使用を必ず守る
5、プレイ終了時に店に電話をする


時として例外はあったが、杏は店のルールは必ず従った。

『モギさん、一緒にシャワーに入って下さい』杏はモギの前に膝間付き土下座をするようにお願いした。モギは無口な人だったと思い出した。前に会ったとき『私はこれでよいのだろうか…』と不安になったことを思い出した。杏は賭けてみた。

『先日の~ワタクシは何も出来なくて申し訳ありません。本当にワタクシは~何も゙出来ない"んです。もし~、また出来ないようでしたら~叱って~ください。でも~誰にも゙言わない"で下さい。出来ないと~オーナーに知られちゃう~とやめさせ~られちゃうんです~。お願いします~。』


杏は十分に野暮ったい声でモギに言った。ついでに鼻もすする。
モギが鼻で笑ったような気がした。
『シャワーに入るぞ』 弾みをつけるように歩き出したモギのあとを杏は引っ付きながら歩いてく。杏は素早く服を脱がせた。
《…こいつ横目で見てる!!私をもう犯してる》 自分の身の危険をを感じた。鳥肌がたちはじめる。頭の中はモギに殺される脅迫概念でいっぱいだった。《だってそうでしょ?ふたりっきりなんだよ?》ズボンを脱がすとき出来るだけ杏は目を背けた。うしろに回り膝間つき、抱き締めるようにして、モギの骨盤あたりに手をおきパンツを脱がせた。ひざへ、くるぶしへ。一緒にガロも丁寧に脱がす。裸の姿になったモギを杏は見つめることはできなかった。


出来るだけ体に直接触れないように気を付けながらモギの体を洗った。洗い終えるとスイッチを押したようにモギがバスローブを羽織り、リビングへと行ってしまった。急いでワンピースだけ上から着た。

ソファに腰を掛けたモギはまるで王様のような態度だった。
『本日はモギ様にこのようなものをお持ちいたしました。』
モギから依頼があったものだが、それは本人の前では言わないのも店のルールだった。事務所から持ってきたSMプレイ用の遊具をモギの前に出した。拘束具、ムチ、蝋燭、バイブ、ローション、洗濯バサミ、コーラ、バナナ、目隠し…『君は私がこんなものを使いたいと思っているのかい?』カバンの中にはまだいくつか品があったが手を止めた。
『いえ、わかりません』
『なんだ?その顔は?私は君を責めているんじゃないぞ。質問しているんだ。どうなんだ?』
『…いえ、申し訳ありません、本当にわかりません。』
杏はモギがこういうものにも興味があるとは思うが、実際はこれで満足はしないと思った。少なからず男たちは自分の趣味を秘密にしておきたい恥がある。たとえ、風俗店の電話番にさえも。モギもそのうちの一人だ。あえて撹乱させるため、必要のないものまで頼むのだ。おもちゃを持ってこさせるのは、自分がノーマルだと回りに風潮するようなもの。

じれったい杏の態度はモギをイラつかせた。
『君は今までにも悪いことをしてきたんだね…』
《私の体を見てる…アザを見てる…醜いと思ってんだ、変な女と思ってんだ…》
『君…ちょっとこちらに来なさい…』
ゆっくりとモギに近づく…。
『おしりを出しなさい』
ショーツをはいていなかった杏はワンピースをめくるとお尻をモギに向けた。










パシッ










パシッ!!










平手で杏のお尻を叩く。
アザのあるところを狙ってる。









パシッ
『っキャ!!』

堪えきれず、杏は思わず唸った。
『このバカが!俺をなんだと思ってんだ?え?答えろ!!答えろ!!』モギは何度も杏を叩き続けた…。














『終了しました、出ます。』
『お疲れ様です。ホテルを出たら右に曲がって下さい。向かえの車を用意してます。』
『ありがとうございます。お疲れ様です。』



『杏ちゃん、よかったよ。また来てくれるかな…』
うしらから声が聞こえる。うまく聞き取れない。舌を噛んでしまって口が閉じられないほど痛かった。
身体中痛い。だけど、優しい気持ちだった。自然に涙がこぼれた。
『はい、いつでもそばにいたいです。』心の底からそう思った。

《良かった…終わったんだ。もう大丈夫だ。怖かった…殺されなかった。》











翌日、身体が痛くて起きた。痣はまだ出ていなかった。杏は満ち溢れていた。生きてることに感謝してる!今日は早く起きれたし、母にメールしてみようかな♪週末にご飯一緒に行きたい!今日は買い物して、お釣りは募金しちゃお!そういえば、まだ返信してないメールがあったな、送んなきゃ、あとで。
お尻を軽くさすり、明日アザが出るのが楽しみだった。杏は笑った。