ピピピピピ

目覚まし時計の電子音が部屋中に響き渡る。

「目覚め最悪。」

大きなベットから一人で起き上がってきたのは、15になった渚だった。

両親を亡くしてからの五年間はショーなどに出て自分で稼いだお金と、

親が残してくれた莫大な遺産で金銭面は何不自由なく暮らしていた。

しかし、いくらお金があると言っても結局彼女は孤独なのだ

思わず苦笑いが溢れそうなほど広い家、広い部屋。

一見幸せに見えるが考えてほしい

今までは家族3人で暮らしていた家が急に一人になったのだ。

彼女が孤独を強く感じる一つの理由にもなっている

一時は家を手放そうとも考えたが、たくさんの思い出が詰まった家を手放す事は出来なかった。

しかしその思い出もまた、彼女を苦しめる種となる

「今日は何弾こうかな…。」

両親に言われた最後の使命を彼女は忠実に守っていた。

それに対し周りは余り良く思わなかったらしい

「親が死んだのにまだピアノを続けるの??まるでピアノを引くだけのロボットね。」

心にもない言葉が彼女に突きつけられ続けた。

それでも彼女はピアノを弾き続けた

それが両親と自分を繋ぐただ一つのパイプだと思っているからだ。

「愛の喜びでいいか、」

愛の喜び、それは彼女の母親がよく弾いていた曲だった。

淡々と弾かれていく音楽、そこには感情がなかった

ただただ弾いている、そう思わせる音だ。

しかしそれでも綺麗な音色なのは流石プロと言える

数分後、曲が終わると彼女はピアノから離れた。

仏壇の前に正座し、今日も告げた

「私は言いつけ通りピアノを弾き続けています」と。

すると仏壇の前から退き、登校準備を始めた

音大付属四葉学園高等部へ行く準備を

四葉学園とは、東京都最大規模の音楽校であり

実力、受賞歴、頭脳がものを言う場所だ

ここを卒業した者は輝かしい未来があると言われる程レベルが高い。

そして、進級すら難しい難関区である。

用意を済ませた彼女は誰も居ない家に向かって呟いた。

「行ってきます。」

今日もいつもと変わらない日になると彼女は思っていた、家を出るまでは。