泣きたいのは俺の方だ。本気になった時にはもう遅い。とっくに他の男のものになっている。俺はどうしてこんなに馬鹿なのだろう。

「横山さんは私の嫌がることなんてしませんから!」

遠回しに強引に迫った俺を責めている。俺の気持ちを拒否して受け入れてくれない。
もうだめだ。夏帆は離れて捕まらない。
こんな俺では純粋な夏帆には相手にしてもらえないのだ。

「夏帆ちゃんとあの人じゃ似合わないね」

「そんなこと分かってます……」

分かってるけど好きってことか。

「慎重になりなよ。君みたいな子は損をしやすいんだから」

「はい」

「…………」

責めている言い方が自分でもどうしようもない。俺のものにならない夏帆に怒りをぶつけてしまう。
夏帆はまたしても俯いてしまった。

俺はエレベーターのボタンを押した。
これ以上嫌われたくない。これ以上怖がらせたくない。だから、見守ろうと思った。

エレベーターに乗ると「それでは失礼します」と言って『閉』ボタンを押した。
夏帆は最後まで俺を見なかった。



◇◇◇◇◇



エレベーターのドアが閉まってからやっと顔を上げた。
椎名さんと会うと疲れてしまう。次に何を言われるんだろう、どんな傷つく言葉をかけられるんだろうと身構える。

それ以上に、椎名さんと一緒にエレベーターに乗っていた二人の方が怖かった。
営業推進部の宇佐見さんが私をすごい目で睨みつけていた。気のせいなんかじゃない。宇佐見さんは私に敵意を持っている。

横山さんと付き合っていることが気に入らないのかな? もう別れたのにどうして? いい別れ方じゃなかったって丹羽さんが言ってたけど、何があったのかな?