「そういえば私の名前をご存じなんですか?」

私のことなんて知らないと思っていた。
横山さんは一瞬きょとんとした顔をして、またすぐに笑顔に戻る。

「もちろん知ってるよ。北川さんは目立つからね。有名だよ」

目立つ? 有名? 悪目立ちしているからということだろうか。

「中途入社は只でさえ目立つでしょ? おまけに若いから余計に目立ってるよ」

「若い……ですか?」

「当時二十歳で入社してくるのはさすがに若いよ。だからみんな北川さんのことを知ってる」

「そうですか…」

本当にそれだけなのかな? 私が『契約社員の雑用係』だから名前が知られているんじゃないの?

マイナスなことばかり考えてきりがなくなる。
実際陰口を言われていることは知っている。高卒なのにこんな大手に入ってきて生意気とか、地味なくせに最近化粧を変えただの、前のようにダサい趣味の服がお似合いだったのになど、学歴から容姿にまで棘のある言葉を隠れて投げつけるのだ。

ピリリリリリ

横山さんの携帯が鳴った。

「ごめん、もう行かなきゃ。部長がいそうなときにまた来るよ」

「すみません、よろしくお願いします」

横山さんは慌ててフロアを出ていった。廊下の奥で電話を受ける声が聞こえた。

営業推進部の人はいつも忙しそう。彼女と別れたのもすれ違いなのかな? あんな素敵な人がフリーなんて、別れたことが噂になればきっと他の女子社員がほっとかないよね。



◇◇◇◇◇



大学の友人に合コンに誘われたのは、契約している医療施設に観葉鉢の納品を終えたところだった。

「一人キャンセルになってさ、洋輔が来てくれたら助かるんだけど」

「別のやつの代わりになるくらいなら俺も遠慮するわ」