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うごうごうご……ぽてっ。

 
よく肥えた青虫が、視線から逃れるように葉から消えた。密に植わった青菜の株と株の間に落下したようで、ぱっと見ではもう探し出せない。
「……あー」
ええとこやったのに、と残念そうにぶうたれて、少年は籠を抱え直し、青菜の収穫を再開した。

とある初夏の午前中。空は凝縮された蒼で、まっ白い雲との対比が、美しく力強い季節の到来を実感させる。山麓の斜面を利用してつくられた鷺凰院の段々畑では、梅雨が明けて一気に成長した野菜の収穫が行われていた。
司馬凌は、鼻の頭に浮かんだ汗粒を袖で拭き、ふしゅう、と息を吐いた。凝った首をほぐすのも兼ねてぶんぶんとかぶりを振ってみると、ぬれた生え際が少し涼しくなったように感じなくもない。だがいかんせん蒸し暑い。日差しはまだそれほど強くなかったが、ときおり吹く風もぬるく湿ていて、汗も乾かない。
「うっへー、あっつ」
夏の暑さは嫌いでない凌だが、蒸すのは少し堪える。これが終わったら、みんなで川に遊びに行きたいな……と考えながら、鎌を動かしていた。
「ほんっと、とろいなぁ」
あきれたような声に振り向くと、涼鈴が笠で顔を煽ぎながら上の畑から下りてくるところだった。凌はいーっと歯をむいた。
「おれは仕事が丁寧なんですぅー」
「こんなに遅かったら昼に間に合わないじゃない!頭が沸騰してあんぽんたんになるわよっ。見なさい、穹はとっくに終わってるわ!」
ぱしこんっ、と笠で凌の頭をはたいてから、涼鈴は、下の畑での作業を終えて水路で手を洗っている穹に、ごくろーさーん、と手を振った。