湯屋からの帰り道。


「はーっ」


紅く色付いたかじかむ指先にそっと息を吹き掛ける。


薄い鼠色の雲が覆う空からは、今日も朝から雪が降ったり止んだり。


どうやら町は本格的に冬へと足を突っ込んだらしい。


規則正しく並ぶ碁盤の通りを吹き抜けていく乾いた風に身を竦めながら羽織の前をきゅっと合わせ、屯所への帰路を急いだ。





「おかえり総司ー……って」



すっかり冷えきった体を震わせ障子を開けると、火鉢の隣で本を読む一(ハジメ)くんに話し掛けていた平助がくるりと此方を向く。


二人とも私と同い歳であり、また同じ副長助勤でもある、気の知れた昔からの仲間だ。


「髪びしょびしょじゃん! また風邪ひいたらどーすんの!」


遠慮なく手を引くと無理矢理火鉢の側に私を座らせる平助は、歳下みたいに小さいくせして中々過保護だ。


結んだ髪をほどき、行李から取り出した手拭いでパンパンと叩きながら丁寧に水分を取っていってくれる。


これが中々気持ち良くて、実は結構好きだったりする。


「もーせめてもう少し乾かしてから帰ってきなよ」

「だって早く帰りたかったんですもん」


あの日以来あの長屋はどうも落ち着かない。


これで風邪をひいたら絶対あいつの所為だ。