――憂鬱だ。


オネェ作家の先生宅の玄関前で、私は4度目になるため息をついていた。

彼氏にフラれた翌日、出版社に出勤した私に編集長から告げられた仕事は、フラれたばかりの私にはキツすぎた。

昨日先生から預かっていた新作のプロットを酷く気に行ったらしい編集長は、そのまま原稿を上げさせて来いというなんとも無茶な仕事を私に押し付けたのだ。

天邪鬼な先生がこんな無茶なこと引き受けるはずがない、と先生と知り合って半年の私でも分かる。


「ふーっ……行きますか。」


ここに来る途中老舗のお店で買ってきた、先生の大好物であるどら焼きを片手に、私は昨日も押したばかりのインターホンを鳴らす。


ピーンポーンッ……


一回鳴らしたからって、先生が出てこないのはいつものこと。

そう思って、降ろした腕を上げてもう一度インターホンを鳴らそうとすると――、


ガチャッ

『あら、茉子ちゃん!』

「・・・え。」


開いたドアから覗く顔は、よく知った人のもの。


『今日来るって言ってたかしら?』

「え、あ、いや…その、」

『まぁいいわ。上がって、上がって!』

「わっ」


突然の出来事にドギマギしていると、腕をガシリと掴まれた私は、昨日みたく室内に入れられた。