「ねー、ちょっと、桐谷」
「……」
今日も、返事は無言。
袖を二回折り曲げた白のカッターシャツ、赤のリボン、濃紺のスカート。
耳下で二つに結んでいるわたしの髪は、穏やかな風に揺れた。
屋上に来たのは何回目、なんて。
きっと考えるだけ無駄だろう。
「聞こえてるでしょ、返事したらどうなのよ」
「……」
ワックスで無造作に整えられたシルキーアッシュの髪と、耳に無数の穴を携え、派手なグリーンのカーディガンを羽織った彼は、空とおしゃべり中のようだ。
相変わらずな彼を見ながら、後ろ手でドアを閉める。
ギイ、バタン。
少し錆びたような音が響いた。
彼はむくりと起き上がり、わたしに視線を向ける。
「……よっこ」
鮮やかな桜色の唇から紡がれた声。
ただその音に嫌悪感はなく、どこか軽快な響きを楽しんでいるようで。
そんなふうに呼ばれたら、結局わたしは。
「だから、わたしの名前、陽子なんだけど」
口先で文句を呟きながら、その右隣に座ってしまうのだ。