ふっと目をさますと誰かが笑ったように見えた。

その微笑みはとても懐かしくて。

でも、もう逢うことはない微笑み。

彼とだったときは私はまだ10歳の少女だった。

横暴で怒りっぽくてそれでいて優しい。

不思議な、ふしぎなひとだった。

いや、人というべきではないのかもしれない。

彼は生きていなかったのだから。

私はゆっくりと起き上がり外の風景に目を移す。

はらはらと舞う桜はまだ五分咲きと言ったところだ。

彼と最後に見た桜は満開だったなと思い出す。

あのころが懐かしくて何度戻りたいと願ったことだろうか。

私は今ならあの彼と過ごした日々のゆめを見れる気がいてもう一度眠りにつく。