《プロローグ》



まず僕が何者かというところから話さなくてはならない。



一言でいい。僕は傍観者だ。




傍観者とは
傍らでただ見ているだけの人。参画しない人。(国語辞書から採用)




そっくりそのままそのとおり僕のことをさす意味だ。




だけど、少し違うところがある。


僕は存在しない。非存在。


物語の軸から外れている。
世界の枠から外れている。
逸脱している。


存在しない傍観者。
なんとなくゾクッとする響きだが、
ホラーチックに捉えられても困る。
この物語は単なる恋の物語なのだから。
そうだ、語り手とでも言っておこう。あながち間違ってはいないし、語り手なくしては始まらない。



物語を語るのも傍観者の仕事だ。




さて、始めようか。


終わりと始まりの物語を。





まずは
眠りから覚めるとしますか。




一一一一一一一一一一一一一一一一一一




〜夢の中〜


ん、どこだ。ここ。
ふわふわした感覚。
あったかい。
すごく心地良い。
僕は眠ってしまっていたのか。
ウトウトしてたらまた眠ってしまいそうだ。


知識。たしかにある。
断片的だけど、たしかに僕の中にある。
頭の中を整理する。
なるほど、なるほど、
ふむふむ、だいたい理解できた。





話し声が聞こえる。




僕はこの声を知ってる。




この人達を知ってる。




そろそろ起きなきゃ。



一一一一一一一一一一一一一一一一一一

《1》



「ダーメ!」




「いいじゃん、一回だけさ?」





「今日はダメだよ。生理だから」





「生理でも俺は気にしないから」

「私が気にするの!!!」



彼女の口調が少し強くなると
男は冷静になったようだ。



「あ、ごめん。そうだよな。」

「まったく!デリカシーのない変態だなぁ、てっちゃんは。」



「男はみな変態だ」



この男の名前は徹也(テツヤ)という。てっちゃんはあだ名。
単純なあだ名だが本人はわりと気に入っているらしい。
周りの男友達は“テツ”と呼ぶことが多い。
うん、なるほどこれが僕の仕事というやつか。語り手。





「てっちゃんは特に変態さんだ」



「オイオイ、お前だってこの前エッチしたとき一回じゃ足りず、、、グオオッ!!」



彼女の右ストレートが徹也の鳩尾(みぞおち)をえぐる。
鳩尾は痛いよねぇ。苦しいよねぇ。
つか、みぞおちって漢字で鳩尾って書くの今知った。ラッキ〜♪
まあ傍観者の僕にそんな知識はいらないがね。
でも知識はあっても全知というわけではないのか。知らないこともある。人間らしくていいじゃないか。ん、そもそも、僕は人間なのか、うーむ。謎。謎。謎。




「ほんとデリカシーのないなぁ!バカてっちゃん!!」



「なんだとぉ!バカは言い過ぎだろうが、アホひまわり!」



「ひまわり言うなっ!いやアホ言うなっ!バカテツ!」



彼女の名前は向日葵(ひまり)。
ひまわりと書いて“ひまり ”と読む。
彼女自身はひまわりと呼ばれるのがあまり好きではない。
周りの女友達からは“ひまりん”と呼ばれている。「暇人」と響きが似てるからそんなに好ましくはないが仲の良い女友達限定で許可している。男にはひまわりともひまりんとも呼ばれたくないらしい。もちろん彼氏の徹也にも。
だからあえて傍観者の僕はひまりんと呼ぶことに、、、グオオッ!
なんか急に鳩尾に痛みが。。
え、攻撃届くの!?非存在に届いちゃうの!?ぱねぇっす。ぱねぇっすよ。ひまりさん。いやひまり様。




「ごめんごめん俺が悪かったよひまり。今日はウチで飯食っていけよ。」



「えっ!でも悪いよ」



「いいからいいから!前にも言ったかもしれないけど、母さんもお前のこと案外気に入ってんだぜ。」




「う〜ん、でもてっちゃんのお母さんはいいって言ってくれてるの?」




「ちょっと待っててな」




徹也は立ち上がり。
部屋のドアを開けると、
「母さぁぁぁん!今日ひまり飯一緒に食べてってもいいだろぉぉぉー??」
と大声で叫ぶ。


すると一階のリビングから
「オッケェェェイ!」
とノリの良い返事が返ってくる。



徹也はひまりの方を振り返って
「母さんオッケーだって」



ひまりは「もうっ!どんな聞き方してんのよ」とツッコミを入れた後に少しほっこりした表情で



「ほんとに仲良しな家族だなぁ。じゃあお言葉に甘えてお世話になります。」




その後に徹也の父親も帰宅して、4人でテーブルを囲んだ。




いいじゃないの家族団欒。
とっても素敵なことだと思う。
徹也はとても暖かな家庭に育ったみたいだね。
うらやましいとは言わない、なぜなら傍観者は嫉妬などしない。






「今日はありがとね。ご馳走様でした。」



ペコリと挨拶して帰ろうとするひまり。



「送ろうか??」



「てっちゃんは心配性だなぁ、大丈夫だよ!そんなに遠くないし!」




「でも暗いし、1人だと危ないだろ」




「ほんとに大丈夫だってば!じゃあ明日学校でね。」



「わかった、くれぐれも気をつけてな。また明日!」



「あ、バイバイする前に、、、」



「わかってる、、、」





………………。





……………………。





……………………………。








バイバイのチューなげぇよ!!!!
ラブラブっぷり発揮しやがってちくしょー!!まあ傍観者は嫉妬などしないがね。しませんとも。
ん、ちょ、まてよ。
キムタク風に言っちまったがちょっと待ってくれよ。
徹也と向日葵の距離が離れたときって傍観者の立ち位置的にはどうなるんだ、さすがに僕が2人いるわけじゃないし、傍観者は完璧でもなければ万能でもない。


二人の物語を語るのが僕の仕事。



さてどうしたもんか。



……………と、思ったら体は勝手に向日葵の方についてゆくのね〜〜。


なるほど、傍観者も男と女の二択ならやはり女を選ぶというわけか。
まいったねまったく。やれやれだぜ。





さて1人になった向日葵はどんな様子かな。
あんだけラブラブなチューしといて幸せそうな顔してるに決ま、、、ん、、、?




















………なんで君は泣いてるの?