事務所の椅子に腰かけ入口をじっと見据え、俺は今か今かと女を待ち侘びる。

未だかつてない複雑な心境。

ワクワク? ドキドキ?

いや、違う。

ムカムカ、モヤモヤ。

そして、行き場の無い苛立ちだ。


家庭にどんな理由があるにせよ、俺の聖域に中途半端な気持ちで足を踏み入れては貰いたくない。

それ相応の理由を聞くまで、アイツを厨房に1歩たりとも入れて堪るもんか!



女は9時出勤のシフトらしく、恐らく8時半過ぎに来るだろう。

うちの仕事は、着替えてから持ち場に入るまでに身だしなみの準備に時間が掛かる。

けれど、食品製造の職場なら当然だ。

お客様に安全で安心した商品を提供するのが義務なのだから。



店舗裏手にある自宅用玄関脇を通り、搬入口から倉庫内を通り抜けると、事務所兼休憩室がある。

更衣室らしい場所は無く、その休憩室の奥でカーテンで仕切り、作業服に着替える。


今日の9時出勤はアイツだけ。

パートさんは皆8時出勤だし、親父もお袋もその時間帯は店舗内にいる。


という事は、事務所で待ち構えていたら………アイツと2人きり。


俺はその時をじっと待っていた。