ケンと駅で別れて、自宅へと向かう。

俺は時折背後を確認しつつ、急に走ったり、わざと遠回りしたりする。

それは、今日始まった事じゃない。

――――これが、俺の日常。


俺ほどの容姿を持つと、ストーカー的なファンの子が結構いる。

遊び感覚で知り合いになるならいいが、『特別=彼女』になりたくて、俺の後をつける子が後を絶たない。


俺はそういう類の子はブラックリストにインプット。

即行で携番も削除している。

それに―――――。


『いらっしゃいませ~』


自宅の玄関に上がると、どこからともなく聞こえて来る声。

そして、否応なく漂ってくる香ばしくて甘い香り。


自宅の表部分は『ベーカリー Anne』という名のパン屋。

自宅兼店舗(本店)。

市内にあるショッピングモール内にも店舗を構え、雑誌に何度も取り上げられるほどの評判の店。


生まれた時からパン屋で育ち、両親はいつも店の中。

3度の食事がパンで、下手したらおやつもパンなんて事も結構あった。


今じゃ、匂いでどんなパンか、嗅ぎ当てられる。