オレの考えの根底に、携帯を持っていないコンプレックスがあるのは分かってる。


 だが、この現実の世界で生きているのに多くの人。


 その過半数以上は、今やインターネットが無ければ生きていけないだろう。


 いまや国民の9割が持っている『携帯電話』に魂を捉われていると思う。


 言うならば『捕食』されている。


 少しだけカッコつけて加藤さんに話したくなった。


「携帯やパソコンなんて、造られたリアルなんですよ。携帯を使い続けてたらなんとなくラクだし、だからみんな逃げてしまうんです」


 嘘だ。自分だって、逃げたい。


 オレはきびきびと立ち上がり、引越し作業で重くなった肩を真上伸ばす。


「加藤さん、もう休憩終わりじゃないですか? さっさと終わらせちゃいましょうよ」


 加藤さんはオレの顔を見て少し微笑んだ。


「よし、もうひとふんばりで終わるぞっ!」


 タバコの火を消しながら、大げさに声をかけてくれる。


 加藤さんは携帯電話を見た。



──『時計機能』



 そうか、時計代わりにもなるんだ。