──特別情報省管轄『イルミナスタワー』


 42階の『会長室』のデスクに座る、大柄な男。部屋の明かりは消えており、デスクに備え付けの照明の反射が、男の凛々しい顔を照らしていた。


 明朗な声をあげながら、電話を受けること、すでに10分。気持ちがのっているように見えて、そこは大人の演技をしていた。


「ははは……ええ、だから、私は彼が勝つと言ったでしょう?ええ」

 
 『長くなりそうだ』そう思った男は、備え付けのポットにインスタントコーヒーの粉を、瓶を傾けて乱雑に入れた。


「勝ちですよ。引き分けなんかじゃないです、勝ちです。

報告書に上げた通りです。えっ? いやいや、手助けは何もしていません。規定通りの指示にて、対応しました」


 机の上の山積みの書類を右手でどけ、写真を一枚取り出した。


「そうですね、龍一が……ええ、やはり『試験』において求められたのは、携帯電話に特化した人間と相反する人間をぶつける事だと。研究通りの結果じゃないですか?」


 時計の針は午前2時を差していた。


「そうです、携帯を一度も持った事がない、貴重なサンプル達は数名居ました。ええ、その中でなぜあの少年、龍一達が……そうですね、その研究については新たな議題に上げさせて頂きます」



 トントンと机を叩く音が、広くはない会長室に男の存在を知らしめた。