ケータイ小説 野いちご

モバイバル・コード

プロローグ『幼き日々と現在と』
9章 本戦2回戦『宵闇の席』

 オレ達三人は、東口駅前のホテルを出て『神田駅』へ向かった。


「龍ちゃん、そのコートはやっぱり龍ちゃんに似合ってるね、あ、首元曲がってる!」


 愛梨がオレの襟首を正してくれる。顔が近くなると、その潤って光る唇をつい見つめてしまう。


 オレが着ているのは真紅に黒のラインが薄らと刻まれているPコート。


 もちろん自分のお金で買ったわけではない。


 オレも雷也も愛梨も、三人とも高校の入学祝いに慶兄にコートを買ってもらった。


 もう2年以上前の2月になるのか。


 まだ慶兄が会長になる前の話だった。雀の涙くらいしかボーナスが出ないと言っていたが、今考えたら大嘘だと分かる。


 慶兄はお金に固執しない。オレとは違った意味で、固執していない。それがオレが慶兄が好きな理由の一つ。


 慶兄は、金なんてただの紙切れで『道具』にしか過ぎないと割り切っていた。


 だから、自分の事よりも周りの人間の為に金をかけていた。使っていたという方が正しいだろう。

 
 より後になって活きる方……周りの人間の幸せを、慶兄は選んだんだ。


 少し大人になった今だから分かる、慶兄の行動の意味が。


 人を楽しませつつ自分も楽しめるようにしようと、努力をしていたという事。
 

 慶兄の家は医師の家系なのに、本人も医者を継ぐ気はなかった。


 それが雷也の父親、霧島家にとってどれだけメンツが潰れたものか……オレには分からない。


 慶兄はよくぼやいてた。


 「医者なんか1日何人単位でしか助けられない。もっと多くの人を助けられる仕事に就きたい」って。


 インターネットの仕事について、多くの人を助けるというのが慶兄の夢だったんだ。

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