第三章 盛夏




第2節 消えない想い












当たり前のように、日常が戻ってきた。




70年前の世界から戻ってきて、すっかり素直になったあたしは、家でも学校でも、「まるで人が変わったよう」なんて言われた。





今までの自分は、つまらない反抗期だったんだな、と思う。




なんであんなに、何事に対しても苛々していたのか?



今となっては不思議でしょうがない。





当たり前のように学校に通えて、



きれいな青空をのんびり眺めることができて、



お腹いっぱいご飯が食べられて、



白いお米を茶碗に山盛りにできて、



たっぷりとお湯を張ったお風呂に入れて、



クーラーのきいた涼しい部屋でごろごろマンガを読んで、



夜遅くまで電気をつけていてもよくて、



空襲の恐怖に怯えながら浅い眠りについて、いつでも逃げられるように大事な荷物をまとめておく必要もなくて………




本当に幸せだ、と実感する。





あたしたちは、日常的に命の危機を感じながら生きたりする必要がない。





こんなに満ち足りた生活をしていて、あの頃のあたしは、一体なにが不満だったんだろう?





現代の日本は、本当に幸せだ。