小さく深呼吸を一つ。

それから……


ゆっくりと教室のドアを開けた。


窓際の席。

机の上に腰掛けている誰かのシルエットが見えた。


窓からは西日が差し込み、そのせいで、わたしの位置からはその表情が確認できなかった。


胸の高鳴りを感じながら、ゆっくりと教室に足を踏み入れた。


1年間一緒に過ごした教室。

またここで会えるなんて、まだ信じられない。


「やっぱり走ってきた。急がんでいいって言ったのに」


距離が近づくと、イタズラっぽい表情でそう言うシィ君の顔が確認できた。


「だって……」


言いかけて言葉につまった。



なぜかシィ君もそれ以上何もしゃべらない。

優しい眼差しでじっとこちらを見つめている。

その視線が恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまった。


ふと教室の隅が目に留まる。

あの日の記憶が甦って、顔が火照りだす。


そうだ。

ここでキスしたんだよね。