バレンタインデーの6日前。


家ですき焼きをした。


「綾音ねーちゃんは彼氏いないのー?」

「プヘァッ」


妹の百合音にいきなりこんな事言われるから、思わず豆腐を吹き出しそうになった。


「綾音ちゃんは厄年だからねー」


おばあちゃんが、そう答える。

おばあちゃん、厄年だから今年は彼氏が出来ないのでしょうか。


すき焼きの汁を吸った豆腐を食べ終えた私は妹の質問に返答した。


「そもそも、好きな人すらいないからね」

「厄年なんだから~」

「厄年は関係ないけど!」

「綾音は一生独身かな」


お父さんは悲しそうにそう言いながら、肉をほおばる。


「茂(しげる)さんそんな事言っちゃって、あなたって人は意地悪なんだから」


お母さんは隣にいるお父さんの肩を小突きながら仲むつまじく話す。


「時音(ときね)ちゃんみたいに女子力が無いとねー。女の子として好きになれないかなー。僕は時音ちゃん一筋だけどね」

「あらまぁ」


両親がイチャイチャと会話している間、百合音はこっそり会話を進める。


「綾音ねーちゃんは高3でしょ?高校最後のバレンタインなんだから、本命くらい作らないと!」

「本命って言ったって、誰も好きじゃないし」


そう言う私の頭の片隅にはあの人がいた。