休日と言うこともあり、道を歩く人や馬車の数が普段より多い気がする。
馬車に乗るのは久しぶりだけど、馬のおかげかお父さんのおかげか、酔わないでいられるのは幸いで。
道を走っていると時々お店のお客さんと目が合って手を振ってくれるので私も振り返す。
何度か繰り返しているとお父さんが笑った。
「いつの間にかカルにもたくさんの知り合いができたんだね」
「お店で知り合ったお客さん達だよ」
「月日が経つのは早いものだ」とお父さんは感慨深く言う。
お父さんは私が小さい時から王宮に勤めているから、一緒にいる時間よりも離れている時間のほうが長い。
私が七歳になる年に迎えた学校の入学式や十五歳で迎えた卒業式はお母さんがお店を休みにして出席してくれた。
――十歳になる年には学習内容が基礎課程から高等課程に変わるために九歳の時には学力確認テストがあって、頑張ったらお母さんが珍しくご褒美をくれたんだよね……。
寂しいこともあるけど、お店のお客さんが優しくて家族みたいだから、時々会うお父さんとこうして普通に接することができるんだと思う。
よく見れば整えられた茶髪には所々白髪が混じっているし、家の前で対面した時は緑色の瞳のまわりには皺が見られた。
そう思うとお母さんが若く見えすぎるだけなんだな……。
ぼんやりと両親の見た目年齢の違いを考えているとお父さんに名前を呼ばれて意識を戻す。
「今の状況で聞きづらいけど、カルには好きな相手はいないのかい?」
声のトーンを落として申し訳なさそうに言うお父さんの言葉に思考が止まる。
少しして揺れがないことに気づけば、建物が途切れた所で馬車が道端に止められていて、眉を下げたお父さんが私のほうを見ていた。
「ルニコ王から聞いて驚いたよ。ソーレがカルを推薦で申しこんできたってね」
「私も驚いたよ。昨日知ったばかりだし……」
「なんと……! ソーレは相変わらず頼もしいな」
目を丸くした後にクスクス笑うお父さん。私はちっとも笑えないんだけどな。
思わず眉を寄せると「やっぱり好きな相手がいるのかい……?」と悲しそうな顔をするお父さん。
私は勢いよく「いない!」と返した。