悩み抜いた結果、私が選んだのはシン様の近くにいることだった。
 怪我がすっかりよくなった後、シン様の仕事をする姿が見たいとお願いして、他国と関係する書類など機密な物以外の時は部屋にいさせてもらっている。
 見学初日にダンスのお礼を伝えられたし体の調子を聞けた。後は専念できると椅子に座って意気ごむ私をシン様は困ったように笑った。

「ここ何日かそうしているけれど、退屈していないかい?」

 紙面に走らせていた手を止めてこちらを見たシン様に首を横に振る。

「いえ、普段見ることのできないお姿を見られて嬉しいです!」

 言い訳に必死なあまり顔が熱いけど、今回は顔が熱くても泣いてしまったとしても止められない。次期国王様の命が狙われているのだから。
 ティアさん達に側にいてもらおうかとも考えたけど、ルーチェ様がどんな行動をするか分からない。実の兄の命を狙うというなら、他の人にはもっと非道かもしれないと考えたから。

「そんなふうに言ってもらえて嬉しいけれど、あまり見られると照れてしまうね」

 頬を赤くするシン様に私もますます顔が熱くなる。
 けれどふと真剣な表情を浮かべたシン様に私は首を傾げた。

「――改めて、リタが君に怪我をさせてしまって本当にごめんね」

「いえ! もう治りましたからリタのことは怒らないであげて下さい……!」

 怪我が治った後に会いに行ったらリタはしょんぼりしてて元気がなかった。
 元気になってほしくていっぱいなでたら一鳴きして頬を舐めてくれて。本当に安心してしばらくなでて舐められてを繰り返していたら、様子を見にきてくれたメイさんが髪まで濡れていた私に驚いていたな……。

「そんなふうに言ってもらえて助かるよ。――そうだ、今日はみんなで出かけたいと思うんだけど、どうかな?」

 机の上で書類を一つにまとめたシン様がにこりと笑った。


***


 シン様の提案に急いで支度を整えて馬車でしばらく揺られて進む。クオーレ地区を越え、隣の地区で馬車は止まった。
 「着いたようですね」と今日も優しそうなラナさんの笑顔に和みながら馬車を二人で降りれば、大きな川が流れ、花が咲き乱れる風景が広がっていた。
 川の音や風が吹くと揺れる花の様子がとても新鮮に感じられて心が浮き立つのを感じる。