――体が熱い……。
 重たいまぶたを開くとフカフカとした柔らかい感覚にベッドの上にうつぶせでいることに気づいた。
 起きあがろうとしたら背中に痛みが走ってベッドにまたうつぶせる。
 顔だけを横に動かしてあたりを見ると自分が使わせてもらっている部屋で、蓄力石の光が微かな明るさを作っていた。
 確かリタが急に取り乱したんだよね……。ティアさんは無事なのか、リタは怒られたりしていないか気になるけれど動けそうになくて。
 部屋を照らす光、窓にカーテンが閉められていて光がもれていないからおそらく夜。
 呼吸をする度に感じる痛みに耐えながら、熱にぼんやりしていると扉が静かに開かれて誰かが入ってきた。

 顔を横に向けて見えた姿に私は一瞬息が止まる。
 ベッドの側で立ち止まったのはティアさんだった。昼間に見た表情とは一変して戸惑ったような様子に内心首を傾げながら、怪我をしている様子はなくて胸をなでおろす。
 私と目が合ったティアさんは視線を左右に走らせた後、もう一度私のほうを見た。

「目、覚めたんだ」

「はい。少し前に……」

 「そう」と言ったきり、ティアさんは顔を横に向けてしまった。光からそらす形で影になった表情は分からない。

「――昼間にかばってくれたのは感謝してる。だけど」

 言葉を切ったティアさんは再び私のほうを見た。
 真剣そうな表情に私も緊張してきて心拍数があがる。

「シン様のことは譲る気ないから。――あたしの家は大家族だから後ろ盾がほしいの。だから、あたしは彼を愛して彼に愛されなきゃいけない」

「ティアさん……」

 ティアさんの希望理由に思わず泣きそうになる。
 みんなシン様に惹かれて希望したのだと思っていたから、ティアさんのように家族のためと言われるなんて考えてもいなかった。
 家族のために人を好きになろうとしているなんて――。
 考えこんでしまうとティアさんがふと笑って私の目尻を強くこすった。

「また泣きそうになってるし。本当涙もろいんだね」

 仕方ないと言った表情がお母さんの姿に重なって見えて急に会いたくなる。
 私は手を伸ばしてティアさんの手に触れた。温かくて柔らかな手の感触に何だか安心する。