「さあカル、もう一度」
ダンスホールの床に座りこむ私に笑顔で手を差しのべてくるお父さん。
疲れからか拒否反応からか、腕は震えて脚はガクガクと言っている。それでもお父さんは笑顔のまま私の両手をつかんで引き、立ち上がらせた。
「基本のステップだから頑張ればできるはずだ。さあ、最初から始めるよ?」
緊張状態に涙がこぼれても今のお父さんには意味がないようで、さっと涙を拭かれてステップの動きが始まった。
初めてお父さんを嫌いになりそう……。
――ことの始まりは次の試験内容を知らされた時。
シン様が立てこんだ国務で忙しく、数日間時間がとれないことをメイさんから伝えられた。
次の試験はダンスなので、踊れる人は自由に過ごしてほしいと言う内容に私は体の熱が下がっていくのを感じ、顔色を心配してくれたメイさんに言葉通り泣きついた。
メイさんにダンス経験がないと言うと「そういうことでしたら、時間もありますしレッスンしましょう!」とにっこり笑顔。「わたしが先生としてピッタリな方をお連れします」と連れてこられたのがお父さんだった。
お父さんがダンスを踊れることに驚きながらも、きっと優しく教えてくれるに違いないと思っていた。――練習が始まるまでは。
「あ……っ!」
ステップを間違えてバランスを崩してしまい。時にはお父さんの足を思いきり踏んでしまい。
足元に集中しすぎて上半身の動きがおかしくなって結局バランスを崩してしまったり。
一日のほとんどを練習に費やして、それが四日目になっても形だけでも全くできそうな気配がなく、お父さんはついに困ったように笑った。
「そういえばカルは運動が苦手だったね。ワタシもすっかり忘れていたよ」
「気づくのが遅いよ……」
今夜が本番、一人ずつシン様と踊るのだと今日の朝に告げられて、私は部屋に籠もりたくなった。
それでも自分のことのように応援してくれるメイさんに気力を振り絞って練習を続けていた。
本番に合わせて今の服装はドレス。もちろん借り物なのだけど、服装が違うだけで私の下手ぶりは力を増していて。
「休憩をしようか」とすすめられた椅子に腰かけ、私はまわりを見た。