メイさんがクレアさんに連れて行かれて何をしていいのか分からず、とりあえず荷物を整理したり部屋の中を見て回ったりと時間を使ってみた。
 それでもメイさんは戻ってこずで、すごく心配になってくる。私が辞退したいなんて言ったからかな……。
 でも辞退するなら早いほうがいいよね。メイさんに不都合がないようにシン様やお父さんに頼んでみよう。
 そうと決まれば早く言いに行こう。とりあえず部屋を出れば他のメイドさんとか誰かに会うはず。

 扉を開けて顔を出し、廊下の様子をうかがってみる。
 ……うーん。先の見えない廊下が左右にあるだけで人の気配を感じない。
 どうしたらいいものかと顔を出したままで考えていると左側の部屋の扉が開いた。
 道を聞けるかもしれないと出てくる人を待っていると、黒髪に水色の瞳を持った優しそうな女の人が出てきた。

「おはようございます」

 私を見て一瞬目を見開いたけどすぐに微笑んでくれたので、ホッと胸をなでおろす。
 シンプルなデザインで彼女の瞳の色に近いドレスの裾を揺らしながら近づいてきてくれたので、挨拶挨拶と心の中で呟く。

「は、初めまして。カルドーレと申します」

 考えてみれば扉から顔だけ出して挨拶っておかしい。そう思ったらどもってしまった。
 それでも相手は気にすることなく上品そうに笑う。

「初めまして。私はラナと申します。よろしくお願いしますね」

 そう言って手を差し出してくれたので慌てて扉をさらに開けて握手をかわす。
 私より熱い手が――ちょっと待って。私はどちらかと言えば体温が高いほうだけど、握ったラナさんの手は熱すぎる気がする。
 視線を手から目の前の人の顔に移動させた時。

「あ……っ!」

 ラナさんが私のほうに倒れてきたので慌てて受け止める。
 体が熱くて息遣いも荒く、体調が悪いのだとすぐに理解した。
 部屋に入れるにしても私一人では厳しいから、入り口横の壁にもたれるように座らせる。相変わらず廊下には人の気配がないしこんな状態のラナさんを残して人をさがしに行くのも気がひける。

「とりあえず熱を少し下げさせてもらおう……」

 呟いて、ラナさんの前で膝をついて座り、両手のひらを上半身に向けて近づける。そして手のひらに力が集まるように集中した。
 間もなく手のひらに温もりを感じ、現れた淡い光がラナさんを照らす。