「お母さん。もお、こっちに来て座ったら」
縁側に座って声をポンッ投げるのは少女。
それを押し返すようにお茶碗を洗う音が外に筒抜けになって縁側に座っている少女の所まで届きました。
台所からの返事はないようです。
「おかぁさぁん?」
くるっと重そうな黒い前髪をゆらし肩を振り返ると、少女の目は輝いきました。
「ようかん!!!」
おかぁさんと呼ばれた少女によく似た女性はようかんをもって隣に座り少女の真似をします。
「ようかん!」
「もう!おかぁさんたら……」
言葉とは裏腹に少女の薄紅色の頬が緩んでいます。
「ゆっくりおたべな」
ようかんをおいて女性は微笑みました。
少女は細く白い腕を伸ばし、細い指先を使いようかんを口に運ぶ。
少女にはなにか表では感じることができないような幼稚らしさが仕草から感じられます。
「ユリは相変わらずね」
女性はふふふと笑います。
「おかぁさんこそ」
ユリとよばれた少女は頬をぷうと膨らませます。
「……ようやく虫の音が聞ける頃になったわね」
「そうね」
ユリは睫を夜空に向け、呟きました。