帰りのショートホームルームが終わってから、、松田花織は重たい足取りで教室を出た。

右手には竹刀を抱えている。

「花織〜! 今日部活なんだよね……」
ちょうど階段を降りている時、クラスメイトの梨花が来た。
「うん……。」
「うわー! めっちゃサボりたそうな顔してる」
彼女には何も言わなくてもお見通しだ。


今日は一月十三日、華の金曜日。しかし、花織にとっては地獄の金曜日である。

「あー! サボりたい!」
心の奥からの叫び。普段なら友達が笑って終わるのだが、間が悪かった。

「松田? 試合前なのにサボんの?」

後ろから聞こえた先輩の声。
毎回部活にはきちんと言っているのだが、運命とは残酷なものでこんなキャラクターになっているようだ。

「早く来ないと遅刻だぞー。」
「はーい。今行きますって〜。」
ため息をつきながらも花織は一番の良き理解者に別れを告げた。
憂鬱でありながらも、こんな会話さえ、花織にとっては大切な一瞬であった。

「じゃ、梨花! また明日ね〜!」
はーい、という声を確認し、リズミカルにステップを踏んだ


……はずだった。


左足に絡まる何か。
それは紛れもなく、彼女自身を全国大会二位まで連れていった、商売道具のようなものだった。
足の裏から廊下の感触が消える。
視界がゆがむ。
「花織!」
「松田!」
二人のそんな声が聞こえた頃にはもう遅かった。

まるで時が止まったかのような錯覚に襲われ、花織は目を閉じた。