時計の短い針は十二を指し、長い針は六を指している。
恐らく中学生や高校生はもう四つもの授業を受け終わり友達と仲良くお昼ご飯の時間でも過ごしているのだろう。
大学生に至ってはもう授業が終わり、後は自由な時間を過ごすだけなのかもしれない。
そんな中、僕はまだベッドから出られずにいた。カーテンからこぼれてくる太陽の光がまぶしい。
目をこすり、枕元に置いてあるスマートフォンを手に取る。
朝起きて最も最初にやることがスマートフォンでSNSを見ること。
お世辞にも褒められた行動ではないのだろうけど、もう体に染み付いてしまっている。
きっと僕も現代人の1人ということなのだろう。
何分かスマートフォンをいじって、もう2度寝する気にもなれず僕は体を起こした。
朝食は昨日の夜にコンビニで買っておいた甘い菓子パンと昨日のあまりのサラダだけだ。
ご飯を食べている時もスマートフォンから手を離す事はなく僕は器用に左手でスマートフォンで何かを調べながら、右手で朝食を済ませていく。といってもたいした量もなく、すぐに朝食を食べ終わり顔を洗い歯磨きをしてから外出の準備をした。

おっと、ご紹介が遅れたが僕もまだピチピチの大学生だ。
ただ休学しているのでいま大学に通ってはいないが。
なぜ休学してるかって?
特に意味はない。親には留学の費用を貯めたいからなんて伝えてるが、本当のところそこまで留学なんてしたいとも思っていない。
僕が休学している理由は...僕にもうまく説明できない。
若者風にカッコつけて言うとすれば自分探しの時間なのだろう。
漠然と大学生活も2年が過ぎ夢も定まっていないまま就職して好きでもない仕事を40年続けて死んでいくのは嫌だと思ったから...というのが1番の理由なのかもしれない。
だが、周りの人にこんなこと言ったら甘えているだけだとか罵られるのが目に見えていたので本当の事を周りには伝えていないだけだ。
という事でいまの僕はただ漠然と日々を生きている若者ということになる。
以前、何かで
「おまえが無駄に過ごした今日は誰かがなんとしてで生きたかった今日なんだよ」
みたいな言葉を耳にしたことがある。
あまり個人的には好きではない言葉ではあるが、なるほど一理ある。
単純で恥ずかしい話だが影響されやすい僕は、とりあえずアルバイトを探す事にした。
ただ、探し始めるとすぐにある問題にぶつかった。
僕の住んでいるところはいわゆる住宅地なので、どこのアルバイトも時給がとても安いのだ。
時給が三百円違えば三時間働くと約千円ほどの差が出てきてしまう。
現実的な僕は(決してケチなわけではない)時給が高い事を決め手に大学の近くの居酒屋に応募し、今日が初出勤の日なのだ。
きちんと髭も剃り、寝癖も整え万全の状態で、お気に入りの大きな黒いリュックを背負い家を出た。
そうして、僕の20年間の人生の中でも最も奇妙な一日目は幕を開けたんだ。