――ドタタタタ…
――バタ、ドタ、ボカッ…!
「行かせるか!」
「良いからそこ退いてくんない?」
外に通じるドアを塞ぎ、キッとオレを睨み付ける座敷わらし。
「そんな怪我でどこいくつもりなの!」
「だから買い物だって言ってんでしょ」
「嘘! 部活に行くくせに!」
「……」
「「……」」
このやりとりを続けること約1時間。
事の始まりは一週間。
体育で足を挫いたのが原因だった。
幸い足首の筋を軽く痛めただけで、まだ完全に完治というわけではないが、アップぐらいならこなせる程にはなっている。
そして、部活に行こうとする俺に、怪我の事でワー、キャーとうるさい座敷わらしが止めるという今に至る。
「退いて」
「いやっ!」
「アンタ、オレが先輩や先生に怒られてもいいの?」
「良い! 悪化して熱出して死ぬよりはマシ!!」
誰が死ぬかって…。
ハァ、というか…
「いい加減にしてくんない?」
「……」
「ハァ…」
面倒くさ…。
「ねぇ」
「…?」
「アンタってさ…本当に疫病神だね」
「…!」
何が幸せを呼ぶ座敷わらしだ。
いつもオレの邪魔ばかりして、オレのため息の回数を増やしたコイツが…。
今までは我慢してきた。
学校とか部活とか。
深入りはしてこなかったから。
だけど今回は…
「ハァ、いつになったらどっか行くのさ…」
いい加減…、腹が立つよオレも。
「…ごめん」
「……」
「……。行ってらっしゃい…一樹くん」
そしたら案外素直に引いた彼女。
ずっとドアを守るようにして立っていた座敷わらしが、うつ向いたままドアを開ける。
そしてそのまま其処で正座をした。
長い髪に隠れて表情は見えなかったが、声のトーンは明らかに低い。
言い過ぎてしまったような気がしたが、時間のないオレには構ってやる暇はなかった。
今更声など掛けづらい。
「……」
「……ごめん」
「……」
だから結局、無言で彼女の横を通り過ぎる。
弱々しい声で謝っていた。
――ポタッ…
「…!」
――パタン
「……」
何を言ってもヘラヘラ笑っていて。
アホで口うるさくてちっとも幸せなんか運ばない座敷わらしが…
「…くそっ」
ここに来て初めて…
泣いた…。
.