「--へー、この人が例の…」

「ちょっ…、先輩! 何しに来てるんですか」



久々の休日にインターホンが鳴ったかと思えば、聞こえてきたのは何故か自分の先輩の声で。


一体塾さぼって何やってるんだこの人は…。

って違う違う。


バッと勢い良くドアの方に顔を向ければ…

そうだ、そうだった。


今この部屋にいるのはオレだけじゃなかったんだった。




「あ、一樹くん。おはよー」

「おはよー」

「ったく、二人して何呑気に挨拶なんかしてるんですか。ほら、アンタはさっさと中に入っててよ」

「ちょっ…も~。あ、朝ごはん、豆腐の味噌汁かワカメの味噌汁どっちが良い?」

「豆腐っ!」




あっちに行ってろ、と座敷わらしを奥へと追いやって。

ヒョコっと顔だけを出して朝食の献立を聞いてくる彼女に、なんだか上手く乗せられてる気もするな…と思いながらもオレの好物を選んだ。

見なくても分かるが、案の定、手だけを出して「りょーかい!」とグーサインを出す座敷わらしを見て、肩を震わせて笑っていた先輩。


「何ですか?」と睨んでも、笑いを止めるどころか目に涙を浮かべた。




「いつまで笑ってるんですか」

「ぷっ、くくくっ…。あー、お前と同棲するような女がいるって言うからどんなスゴい奴かと思えば…」

「同棲じゃありません。あの人は居候です」

「ハハ…、違う意味でスゴい女みたいだな」

「無視ですか?」




「なかなか可愛い人じゃんか…」と笑ってますけど…。

良いんですか?

言いつけますよ彼女さんに。


大体、先輩がもし彼女の正体を知ったらそんな風に笑ってられませんよ、絶対。

だって彼女は…




「港(みなと)さーん! 港さんも朝ごはんどうですか?」

「ん? あぁ、じゃあお言葉に甘え…、っ!!」

「ちょっ…! 何で飛んでんの!」




そう、彼女は人間ではないのだから。

今だってほら、さっきの大人っぽい着物ではなく可愛らしいエプロンを見に纏いお玉片手に首をかしげている。


宙に浮いたまま。



最初の頃はオレも焦った。

この前なんか部活で疲れたオレに更なる追い討ちを掛けるかのように、彼女は天井に正座してお茶を啜っていた。

そして言ったんだ。

「あ、一樹くんおかえり」

って。しかも何事もないかのように。

一気にドッと疲れが出た。

そんなことが日常化してくる今日この頃。


いい加減もう見慣れたよ、

オレはね。


だけど先輩は違う。

今日が彼女との初対面。

そんな彼女が平然と空を飛んでいるのだから、驚くに決まってる。

もちろんオレも驚いた。


先輩とは違う意味で。




「オレ以外の奴の前でその能力見せちゃダメだって言ったでしょ!」




面倒くさい事になるから、本当に。




「へ? あ、ごめんごめん。でも港さんはそれだけに驚いてる訳じゃないみたいだけど?」

「は?」




どういうこと?

そう首をかしげれば、「ほら!」と港先輩を指差した座敷わらし。

後ろの先輩を振り返るとなるほど、確かに彼女が飛んでいることだけに驚いている訳じゃないようだ。




「先輩、そんな難しい顔してどうしたんですか?」

「んー…? いや…、オレってさ…」

「はい?」

「自己紹介したっけ…?」





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