「――……い」



遠くの方で音が聞こえる。

あぁ、ようやくお迎えか。
ということは死ねたのか、私…。



「おーい、大丈夫かー?」



ん?大丈夫?

わざわざ死んだ奴の心配するなんて、死神って案外優しいんだね。


はいはーい、大丈夫ですよー。



「参ったな…。ねぇ、本当に大丈夫?」



だからなにが?

そりゃあ、彼氏に裏切られてその上問い詰めたら逆ギレされちゃって、それで腹が立ってあんなバカ男と付き合ってた自分が情けなくなって自殺しちゃうようなかよわーーーいレディだけれどさ。

「大丈夫」連呼しすぎじゃね?

そこまで心配されたら逆に悲しくなってくるんだけど…。


というか死神って男なんだね。
結構好みな声だわ。
ほら私、声フェチだからさ。

それと頬っぺたつつくの止めてください。
擽ったいです。マジで。


――プニ


「だから止めろっていってんだろうがぁぁぁぁぁ…っ!!」

「あ、やっと起きた」

「は?いっ…!ててて…」



皆さん、今私の目の前に何がいると思います?

あれ?
もし私にまだまともな脳みそが残っているのなら、死神というものは黒い服を着ているのではなかったろうか?
実際そうだったら嫌だけど、骸骨に黒服というスタイルも何かの本で見たことがある。

それがだ。


私の目の前には何故か
髪の毛茶髪で着物で、着物なのになぜかめっちゃチャラそうな奴が居るではないか。

え、何コレ超怪しい。
死神超キッモ!!



「何? その変な顔」

「わっ!喋った!…ったた」



そういえば、さっきから私に襲いかかるこの頭痛はなに?

死んでも痛みがある、まずそのことに驚きなんだけど。

というか私、本当に死んでんの?
ぶっちゃけた話さ。



「あー、頭痛い? キミ、オレの上に頭から落ちてきたんだよねー」

「マジで! というか、私生きてんの?」

「うん、生きてる」



死んでなかったーーーーー!?

え、じゃあコイツ誰なのさ。
死神じゃなかったら何?

超怪しくない?

というかなんで私、コイツの上から落ちたの?
私川に入ったよね?
思いっきり浸かったよね?

意味分かんねー!



「でさ、急なんだけど」

「は?」

「キミは何処の村のから来ちゃったのかなー?」

「へ…、っ!」


(今ごろ気付いたけど)布団から上半身を起こしていた私にこの男は怪しげな笑みを浮かべたまま急に後ろに押し倒し、腕を固定すると刃物のようなものを首元に近づけてきた。

頭が状況に付いていかず、ポカンとしている私に依然として変わらない態度のこの男。

首元の金属の冷たさが気味悪い。



「は?え、ちょ…」

「どんな術かは知らないけど、わざわざオレの上に落ちてくるなんてねー。ま、とにかく教えてよ。抵抗しなければ、紳士的に聞いてあげる」



超怖ぇー…。

ただ一つ訂正しておきたいのが、これのどこが紳士的?

抵抗するも何も、腕も何もかも固定されてるんじゃ、動きたくても動けないから。



「った…、これが女性に対しての紳士的な態度?ふざけんな!」

「ハハ、威勢がいいね」

「第一、村ってなに? いつの時代の人なわけ?
ここは日本でしょ?に・ほ・ん!」

「にほん?」

「え? まさかの日本知らない感じ? もしやあんた外人? ワタシ、ニホンゴワッカリマセーン、てな感じですか?」



今かなり、自分うざいと思う。
いやだって"村"って!
何時代の人なのさ! 何? 弥生時代とか?
古っ! 外人さん時代遅れすぎー!
わはははははは…!



「…ふーん」

「…あ、…ひっ」



超やべぇぇぇぇぇ…っ!
むっちゃニコニコしながら、むっちゃどす黒いオーラ出してるよこの人!

刃物の先がグッと首の皮を押す。
チクッとした痛みと同時に暖かい何かが流れるのを感じた。



「ふ…」

「ふ?」


「ふっざけんじゃねぇぞぉぉぉ…ッ!!!」


――ドゴッ!


「う゛…」



レディに向かってなんて無礼な!
コイツ肌を傷つけやがった。しかも意外と目立つ首元に。
何コイツ、まじあり得ないんだけど。

つー事で思いっきり足を曲げたら顔を真っ青にして私から離れたこの男。
壁に手をついて痛みを堪えている姿が何とも無様だ。



「アンタなに考えてんの? か弱いレディの肌を刃物で傷つけるなんて! マジあり得ない、マジムカつく!」

「……」

「何とか言えよ」


「…全然」

「あ?」

「全然か弱くないと思うけど…||||」

「……」

「……」



とりあえずもう一蹴りいっとく?






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