私の名前は、夏希。私の産まれた季節が夏だったので、この名を付けたと父が言っていた。
夏に産まれたから、なのかどうかは分からないが、四季の中では夏が1番好きだった。
ある出来事が起きるまでは。
私には、白山明里という幼馴染みがいる。
彼女とは昔から、本当に仲が悪かった。何かあるたびにいつも喧嘩していたように思う。
私と彼女の性格は、正反対だ。
明里は、性格がとにかく悪い女で、口が悪くて気が強く、
ワガママで短気で時々泣き虫にもなる。
しかし、顔は可愛いくてスタイルも良い。髪は長くてサラサラだったし、
色白で、目は二重で大きくて、誰もが憧れるような容姿をしている。
そんな明里が、私は嫌いだった。
高校を卒業した私は大学生になり、大学の近くにあるアパートで1人暮らしを始めた。
アパートを出て、信号を渡り真っ直ぐ歩いていくと本屋さんが見えてくるのだが、
私はそこで、何か面白そうな本はないかと探していると
ふと目に入った本の題名が、
【あなたには、本当の友達がいますか?】というものだった。
その文字を見た瞬間に、私は心の中で「いない」と呟いていたのだ。
私には、友達がいない。
それは、私が大学生になったばかりでまだ友達を1人も作れていないとか、そういうことではなくて、
ただ単純に、今まで本当の友達と呼べる人など1人もいなかったということだった。
その時、明里の顔が頭に浮かんできたのだ。
私の幼馴染みである、白山明里の顔だ。
真っ白い光の中で1人、こちらを見て笑っている明里だ。
明里は私の友達ではない。
彼女は、私の親友だ。
そう思った時、急に胸が苦しくなった。
ここには、明里はいない。
私は明里のいないこの町に1人でいる。
「あかり・・・・・元気にしてるかな」
誰にも聞こえないような小さな声で、私はそっと呟いた。