「いらっしゃいませ」

龍臣が穏やかに声をかけると、その人物はおずおずと店の中に入ってくる。
隣町の高校の制服を着た可愛らしい女の子だった。
しかし、ここは高校生が気軽に買えるような物が売っている店ではない。
時々、若い子が興味から店の中を覗いていくこともあるが、体外は的外れの様ですぐにつまらなそうに出て行ってしまう。

しかし、女の子は戸惑いながらもしっかりとした意志をもって中に入ってくる。
きっと間違って入ったのでなければ、彼女が「本」の持ち主なのだろう。
女の子は本棚を見て回り、うろうろとしていた。
その瞳は不安そうに揺れている。
しばらく店の中を歩き回った後、カウンターにいた龍臣にゆっくりと近づいた。

「あ、あの、本を探しているんですけど……」

消えそうな小さな声だ。
しかし、どこか確信めいている。探している本はここにあるとでも言うように。

「それはどんな本ですか?」
「えっと……どんなっていうか、説明しにくいんですけど、あの……」

女の子が困ったように眉を下げる。
「本」を探している人にもその「本」がどういったものかはっきりは分からないんだとか。
ただ、ただ漠然とここに自分の探している本があると確信を持ち、足がここへ向き、本を探すのだという。
龍臣は小さう頷いた。そしてカウンターから一冊の本を取り出す。

「それはこれではありませんか?」

困り顔の女の子に業務用の穏やかな声で手元の革表紙の本を見せる。
すると女の子はパッと笑顔を見せた。

「これ……、そうです。これです。あの、これおいくらですか?」

きっと本来ならこの本を目にするのは初めてだろうに、何故かこれを求めてくる人は自分の探している本がこれであるとわかるのだ。
本が人を呼んでいるのか。