「あの、ここは記憶堂書店で合っていますか?」


龍臣が本棚をハタキで叩いていると、店の扉が開いた。
記憶堂の前に一台のワゴン車が止り、中からスーツ姿の一人の男性が降りてきて、そして、店のなかに入ると、辺りをキョロキョロとしながら不安げにそう聞いてきたのだ。
見たところ、30代半ばの痩せ型の気の弱そうなタイプの人だ。龍臣と目が合うと、掛けていた眼鏡をクイッと上げた。


「はい、記憶堂書店です。いらっしゃいませ」


記憶堂の書物を探しに来たという感じにしては、やや挙動不審だ。
龍臣は内心、怪しく思いつつも笑顔で対応した。
男性はおどどしながら一歩龍臣に近寄る。


「あの、あなたはここの店長さんですか?」
「はい。ここの店主で柊木と申します。お客様は何をお探しですか?」


男性の前に立つと、龍臣の方が上背もあり体格的にもその差は歴然だ。もし怪しい人物だとしても、これならなんとかなるかもしれないと頭の隅で考える。
やはり店を構える以上、時々不審な人物が来るのは想定内だ。
ましてやここはそこそこ値段のする書物が置いてある。重厚なセキュリティはないが、出入りする人が少ない分、龍臣は相手をよく観察し、何かあったときに対応できるようにしていたのだ。