「俺とお前の会話なのだからお前さえ伝わればよし!」

 菊池は、そう言うと旨を張った。

「でも、使い方間違ってないか?」

「そうだっけ?」

 菊池が首を横にかしげた。

「笹山さんとは何にも無いよ。
 じゃ、待たせたら悪いからお先に失礼するね」

 俺は、そう言って上手く菊池の質問をスルーした。

 待たせたら悪いと思うのは本当。
 何にも無かったと言えば嘘になるかもしれない。
 キスだってしたし、ハグだってした。
 でも、返答次第では笹山さんに迷惑がかかると思った。

 あの時、笹山さんが欲しかったもの。
 それは、偽りの愛じゃない。
 ただの包容だったのだから……

 俺は、あの時心の中で何度も何度もそう呟いた。
 俺が会社の玄関に向かうと、既に笹山さんは立っていた。

「あ、遅かったやん。
 置いていかれたと思ったで……」

 少し寂しそうに笹山さんは言った。

「ごめん
 菊池にちょっと呼び止められてさ……」

「今日は、近くのサイゼリアでもええか?
 あれだったら、お酒でもいいけど……」

 笹山さんは、少し照れながら言った。

「昨日のが二連ちゃんは、ちょっと厳しいからサイゼリアにしよう」

「そ、そうか?
 じゃ、サイゼリアに行こう」

 なんだろう。
 笹山さんの様子がいつもと少し違う気がする。
 って、『いつも』がどんな人なのかは知らないけど……
 昨日とは明らかに違う……